2014/10/14

デジタル・クロックの第一歩の改善

TASCAM DA-3000(下の機材)
新たな曲作りに向けての、デジタル・レコーディング・システムのメンテナンスの一環で、デジタル・マスター・レコーダーの「TASCAM DA-3000」を導入しました。

大方、この機器を導入する目的というのは、2chのDSD録音、それからAD/DAコンバーターとしての役割の部分でしょう。もちろん私もそこに強い関心を持っていますが、導入の第一の目論見は、「ジッターの改善」にありました。

ジッター(jitter)とは“揺れ”のことです。あらかじめ決められた周波数(48kHzとか96kHz)によるデジタル・サンプリングのタイミングの精度(周波数を刻む精度)によって、録られた音を再生する変換時のタイミングと誤差が生じ、聴感上のノイズとなります。この誤差が大きければ大きいほど、ノイズもそれに比例します。

サンレコのゴウ・ホトダ氏のコラム
そもそも私がデジタル・クロックにおける制御や同期の問題、ジッターの影響について知ったのは、90年代半ばのことです。雑誌『SOUND & RECORDING MAGAZINE』(1996年12月号・リットーミュージック)のゴウ・ホトダ氏のコラム「世紀末に向けて」で、「デジタル・レコーディングに対する常識、そして観点(前編)」がその教示となり、その3ヵ月前の同コラムでも、「ハード・ディスク・レコーディングの功罪」というテーマでジッターの影響問題について述べられていました。ともかく私はそこで初めて、そういう概念を知ったのです。

2年ほど前、私は発振回路に関する実験で「SLEEPIN」という曲をやりました。学研の電子ブロックでコンデンサによるブロッキング発振回路を組み、それをリズムにしてみたのです。人間が手を叩いてリズムを刻むよりも不精確で、だんだんとタイミングがずれていきます。いかに水晶発振が精確に時を刻むかということが分かります。

DA-3000はTCXOの搭載で精度1ppmです。これは100万分の1の誤差になります。室内の常温では、もう少し誤差が小さくなるようです(電源を入れて10分以上経過すれば、クロック精度が安定するらしい!)。
尤も、水晶ではなくイリジウムだのなんだのに関しては、さらに誤差が小さくなるわけですが、機材としては大変高額になります。

とりあえず、当面においてはこのDA-3000の導入によって、そのクロック精度改善の第一歩を果たし、これまでより高音質でレコーディンをおこなっていくつもりです。

2014/10/11

EMI TG12345

アーサー・ロー氏と伝説のコンソール(写真集より)
アビイ・ロード・スタジオの輝かしい歴史を綴った写真集『Abbey Road: The Best Studio in the World』の中に、世界のミュージシャンのポテンシャルを引き出して已まなかった、伝説のコンソールが写っている写真があります。それはモノクロームの印象深い写真です。

1972年、BBCのTVドラマ「Dad's Army」の出演者Arthur Loweがリラックスして肘をついているコンソール――それがアビイ・ロード・スタジオの伝説の、「EMI TG12345」です。

私がまだPro Toolsを使い始めて間もない頃、何か良いEQプラグインはないだろうかと探し求め、出合ったのが「EMI TG12412」と「EMI TG12414」でした(当ブログ「Abbey Roadプラグインについて」参照)。録り終えた生々しいサウンドをこれらのプラグインに通すことによって、何か劇的な、研磨された音楽的なサウンドに変化した最初の驚きを憶えています。

先日、WAVES版の「EMI TG12345」をインストールし、早速テストしてみました。
これは先の2つのマスタリング用のEQ&フィルターとは違い、ミキサーのモジュールのチャンネル・ストリップ型になっているのですが、“それらしき”位相歪みが加わって、Pro Toolsの生々しいサウンドではなくなります。

DYNAMICSセクションのコンプとリミッターは、いわゆる現代的なそれとはまったく違い、“旧式の”と言いたくなるような、持ち上がり具合と叩かれ具合に特徴のあるサウンドに変化します。HOLDのつまみをうまく調節すれば、非常に味のあるコンプ効果になり、エレキギターやドラムなどのサウンドに使いたくなります。

EMI TG12345プラグイン
EQセクションのTREBLE、BASSに対してPRESENCEの中域は500Hzから10kHzまでの可変式となっており、「EMI TG12412」のスポット式ではありません。この「EMI TG12345」のEQは、実にもっともな、まっとうで音楽的なサウンドを作り出す生真面目なEQであり、どこかの安物プラグインEQの単なる“レトロ調”とはまったく違います。

さらに好みでDRIVEを持ち上げれば、いやらしいほど古臭い電子部品を通ったサウンド、とでも言いたい歪んだサウンドになり、原形をとどめません。私の好みでは、DRIVEの加減よりもNOISEの量を上げて、少しざらついたサウンドにする方が好きです。

当然ながら、この「EMI TG12345」を通ったサウンドに「J37 Tape」プラグインを用いれば、完璧なと思えるほどアビイ・ロード・スタジオのサウンドになる、というわけです。

2014/10/09

POLYPLEXの楽しみ方

シンプルなドラム・サンプラーPOLYPLEX
先月末にNATIVE INSTRUMENTSのKOMPLETE 10をインストールして、いくつかのソフトウェアを試してみました。

ところで私が3年前に初めてKOMPLETE 8を導入する以前は、Pro Tools付属のXpand!を主に音源として使っていました。Xpand!自体、なかなか優れた音源で、これだけでも十分なクオリティだったのですが、リズム系が少し物足りない気がしたので、確かその頃KOMPLETE 8のBATTERY(ドラム・サンプラー)に惚れて、KOMPLETEシリーズを導入したのだと記憶しています。なのでBATTERY以外の同梱ソフトウェアにはあまり関心を持っていませんでした。

そうこうして使い込んでいくうちに、私の曲作りにおいて最も使用頻度が高いのが、KOMPLETEシリーズです。スタンダード楽器のサンプラーと多種多様なシンセとのバランスが取れていて、様々なジャンルの音楽に移行できる汎用性に優れています。中でもFM 8は本当によく使っています。

今度のKOMPLETE 10で使い込みたいなと思っているのは、「POLYPLEX」です。8パートのドラムサンプラーで、いわゆる普通のトリガーなのですが、プリセットを呼び出してエディットする前にランダム化することができます。つまり“即席”に独自のキットが出来ます。これをさらにエディットすれば、まったく新しいリズム・グルーヴを作り出すことができるのです。とてもシンプルで簡単、ドラムマシンのサブ・パートとして使えば、かなり独創的なリズム・セクションがそれほど時間をかけずに構築できると思うのです(BATTERY 4+POLYPLEXという使い方)。

KOMPLETEシリーズのシンセ&サンプラーは総じて、とても革新的です。頭では考えつかない音楽的構造をひょいとアウトプットしてくれて、それがヒントになったりします。どのソフトウェアを基礎(基幹)にして使うかによって、まったく表現性が変わるわけです。「変わる」というのと「変えていく」という面を瞬時にクリエイトすることができるのが、KOMPLETEシリーズの強みです。ハードウェアのシンセでは、“瞬時に”ということができません。

逆にKOMPLETEシリーズはサウンドが非常に高品位なので、これらでシーケンスしてしまうとサウンドをいじる余地がないのではないかと思ってしまいます。
しかしそれでも私は、これらを使ったレコーディング&ミキシングにおいて、サウンドの立体的な構造をいじる必要があると考えています。いわゆる一般的なプロモーション用の(派手で透明感のある)サウンドから抜け出すためには、様々なアプローチをしなければなりません。例えば、この派手で透明感のあるサウンドを、わざと甘く、モコモコとしたサウンドに作りかえたり。コンプをガチガチにかまして、立体感の乏しい硬い閉塞的なサウンドにしたりとか。

そういう意味では、あくまでKOMPLETEシリーズは、スッピン状態のサンプルに過ぎないのだということを思い返した上で、独自のサウンドを作り出す努力を怠ってはならないのだと、私は考えるわけです。

2014/09/27

QY-700の生き残り計画

美しすぎるQY-700の外観
当ブログの7月3日付掲載の「懐かしいバッキング・アイデア?」で、YAMAHA QY-700を引き合いにした上で、《あの時代のハードウェアのシーケンサーというのは、ピアノロールのような視覚的に便利なものがなかった》と書いたことについて、まず訂正してお詫びいたします。QY-700には“ピアノロール画面”が有り、それによるエディットが可能です。文中に注釈を付加いたしました。
これはQY-70を使っていた頃の記憶とごちゃ混ぜになっていたことが原因で、QY-700もピアノロール画面は無かっただろうと勝手に推測したためです。

先日、およそ3年ぶりにQY-700のシーケンサーをエディットしてみました(しかもあのミニ鍵盤=2オクターブ鍵盤キーを使って)。ピアノロール画面が出てきました。視覚的には当時としては非常に効果があったと思います。が、やはり今となっては打ちにくく、ベロシティその他のバーグラフを併行表示してエディットできないピアノロール画面なので、ビートの肝となるような節を付けたり、クレッシェンド、デクレッシェンドなどのエディットも後編集という形になってしまい、ちょっと不便です。もちろん、ある一部の音符をまとめて矩形指定してエディットするという、今では当たり前のエディットもできません。

これがQY-700のピアノロール画面
QY-700は、AWM2音源の音色数はノーマルボイス480、ドラムセット11。トラックは32+パターントラック16。スタンダードな楽器はほぼ網羅しており、これに一部のシンセ系リード&パッド、サウンドエフェクト的な音色が加わっており、デモをつくる上では申し分ないスペックです。

とは言え、今、かつてのような“デモ”(あるいはデモテープ)という概念が音楽制作の中ではっきりとしたものではなくなり、最初から本制作を進めた方が作業効率が良いので、“デモ”というのは本制作のうちの、ある一定の段階を指すにとどめられていると私は思います。

では、QY-700で“デモ”を作っても意味はないのか?
うーん、はっきり言ってそうかもしれない。
であるならば、いかにしてQY-700で本制作するべきか――。

それは結局のところ、個人的にQY-700とこれからどう付き合っていくか、という問題になります。

結論としては、こう。
QY-700を音源的にもシーケンス的にもそれ独自の、無二の、「特異な音楽制作装置」として割り切らなければ、と思っています。
生っぽいフィーリングのリズムは苦手。派手なシンセサイザーのフィーリングも無理。現代的なDAWのエディット機能にはとても勝てないし、独創的なグルーヴは構築できない――(と言い切ってしまう)。
つまり逆に、日本的な四畳半的な敷居の中の、ある種閉塞的な音楽ならば、QY-700の個性が光る気がする。
3パートか4パート程度の音色で、不気味に反復するようなスケールの小さい曲…。

こうしてQY-700の可能性を逆に縮めることで、それがかえってQY-700の個性を引き出せるのではないか、ということを2014年の今、考えています。

2014/09/16

カセットMTR最期の1台―YAMAHA CMX100

異常に元気なYAMAHA CMX100
私にとっての、カセットMTR所有の歴史、その最期を飾るのがYAMAHA CMX100。

カセットテープ式4トラック・マルチトラック・レコーダー。4イン、ステレオアウト、テープアウト(1~4)、AUXセンド&リターン、PHONESという入出力スペック。
テープスピード2セレクト、dbxノイズリダクション搭載。ピッチ・コントロール有り。寸法約38cm×21cm×6.5cmとやや小ぶりで重量は2.5kg。発売年は1988年。

今月、424MKII及び464の分解作業(「424MKIIと464の分解部品移植の話」参照)で2機を失い、新たにカセットMTRを探したところ、ようやく見つけたのがCMX100です。なんとかモーター駆動やテープ走行に問題のないものに出合えて、ホッとしています。

入手したCMX100は随分と古い機種でありながら、外観の傷はほとんどなく、各ツマミやフェーダー、レコーダー部の主なボタンも正常に動作し、走行に関してはかなり元気です。不具合は今のところ見当たりません。

しかし、いかんせん先のTASCAM製品と比べると、あらゆる面で性能が劣る。80年代後半の製品ということで致し方ないのですが、まず何より、PHONESのアンプ部のS/Nが悪すぎ。
これでモニターしながら、レコーディングやオーバーダビングをしても、ノイズや歪みや音質を測ることができないほど、S/Nが酷い。とりあえず録れたかどうか確認できる程度の代物です。
そしてフェーダー。目盛りを見ても、どこを基準にしてフェーダーを上げていいのか分からない。マニュアルを読むと、“7”が適正値らしいので、“7”まで上げるようです。

YAMAHA独特だったミキサー部の外観
メーター部も慣れるまで見づらく、そもそもEQがないという製品。当時としてもこれ1台だけでは、デモテープを作るためのデモ(これをデモデモテープと呼びたい!)程度のことしかできなかったでしょう。

ホームページのコラム「さよならカセットMTR」で書いた通り、このCMX100が動かなくなれば、もうカセットMTRから完全撤退とします。現役の実務機としては、CMX100の性能上、もしかするとアーカイブのカセットテープを再生して確認する程度のことしかできないかも知れませんが、それでいいのです。

しかし、敢えて面白いことに使ってみる価値はありそう。作品づくりに加担する形で。これまでのカセットMTRと比較して、性能では断然劣ってしまうCMX100であるけれども、故に面白いことができるのではないかと。そういう使い道なら、まだまだ可能性は十分にあると思うのです。

2014/09/04

D-110音源のストック

オーディオ・インターフェースをMOTU 828xに替えてレコーディングなどをしているうちに、やはりこの周波数レンジの、余裕のある聴こえ方について、しばし思索に耽ることがあります。

828xにおける量子化された音のやりとりを通じて、聴感上、周波数レンジのゆったりとした感じがあること――例えて言えば、ワープロで文書を作成する際、紙1枚のスペースに対して、桁と行を調整しますね。これらが非常に狭いと、文字が重なる部分ができ、その部分が見た目濃く感じるので、全体としては狭い範囲に文字が並んでいるのですが、色が濃い部分が多くなります。

逆に、桁と行を思いきり広くすると、今度は、字と字の間隔が広まって、全体としては広い範囲に文字が並び、見た目の色も、比較して薄い感じになります。

後者が828xのレンジ感です。隣同士の音の間隔が広く感じる…。一つ一つの音の倍音構成がよく分かる、といった感じでしょうか。とは言え、考えてみればこれはPro Toolsとの組み合わせの兼ね合いもあるので、828xだけの問題ではなく、すべてのチューニングの問題なのかも知れません。

ともかく、今、私が抱える自宅スタジオの現場では、そういう音が録られ、それが作品になっている、ということを踏まえて、さて本題です。

桁と行が以前よりも広まった紙1枚のスペースに対して、レンジ感の狭い音源を扱ったらどうなるか。

奇跡的に現存して稼働するRoland D-110
以前入手したRoland SOUND Canvas SC-88Pro(1996年製)よりも古い音源モジュール、Roland D-110(1988年製)を扱ってみよう、という気になりました。
D-110は歴史的に見ても面白い、PCM+デジタル減算方式といったRoland独自のLA音源(線型演算音源)です。

当時のシンセサイザーの、様々な演算方式に関わる歴史についてはここでは書きませんが、D-110はパリッとした音、サクサクとした音がたまらなく、私の好きな音です。
Rolandの音源は結局、アンプ部のトランスとそれに関わる回路が良質なのか、“当時としては”非常にレンジ感がゆったりとしています。音を出力するアンプ部のクオリティ、それを繋ぐケーブルのクオリティ、受け取る側のアンプのクオリティ、といったことがレンジ感に左右します。
このD-110を828xに突っ込んだら、きっといい感じになると予想しました。

2014/09/03

424MKIIと464の分解部品移植の話

再生ピッチが不安定になったTASCAM PORTA STUDIO 424MKII
アナログMTRの話です。
先々月のことですが、所有していたTASCAM PORTA STUDIO 424MKIIの再生ピッチがいよいよ怪しくなりました。そこで、先月になって代替機を探したところ、TASCAM PORTA STUDIO 464の美品を入手することができました。

ところが、手元に届いて実際に動作チェックをしてみると、「再生ができない」という状態。見た目とは裏腹に、なんてことはない“ジャンク品”であったことが判明しました。

ここで私は考えました。
大概、その原因の多くはレコーダー部の劣化した部品のせいなので、424MKIIの部品を464に移植しようと企て、思い切ってそれぞれを分解することにしたのです。

さて、分解してみると、464の再生不可の原因は、やはりレコーダー部のキャプスタンの、モーターを伝導するゴムベルトが、完全にちぎれて熔解していたせいでした。しかもモーターに溶けたゴムが付着していて、硬い粘土状になっていました。

私はこの付着物をできるだけ除去し、なんとかベルトを掛けて走行できる状態にしました。
そして、424MKIIのゴムベルトをそこに引っ掛け、分解したレコーダー部を元に戻そうとした…。しかし。

それは無理でした。424MKIIのゴムベルトの寸法と、464のモーターの箇所の寸法とが合わず、この移植手術は大失敗に終わったのです。

一方、こちらは見た目だけ素晴らしいPORTA STUDIO 464
ミキサー&多重録音としての機材性能を比較すると、464の方が優れているわけですが、機械的にも、中を分解したら464が優れていることを発見しました。
464のレコーダー部のモーターは3つ装備されていて、どれも大きい。424MKIIの方は小型のモーターが2つ。したがって、ゴムベルトも2箇所必要で、テープレコーダーの駆動に関しては、464の方が機械的にシンプルなのです。

しかし、両機共々、その他のユニットに関しても電子部品は非常に多く、繊細かつ精密。非常に細かな形の違う部品とケーブルが複雑にひしめき合っていて、これを目撃すると、ある種感動します。古き良き日本の精密機械の素晴らしさに。すごい技術なわけです。

さて、これまで何台も、カセットテープ式の4トラック・アナログMTRを入手しては壊れ、入手しては壊れと、取っ替え引っ替えしてきた私ですが、そろそろアナログMTR歴も終焉にしようかと。実は数年前から同じようなことを考えていながら、ついつい別のMTRを入手したりして継続してきたわけです。

あと1台だけ。
あと1台だけ、基本的な動作が可能な状態の、MTRを入手して、それをある程度使い込んで、寿命が尽きたら、それでおしまいにしようかと。そんなことを考えています。