2015/01/22

「肖像」を考える

「肖像」というピアノの伴奏によるオリジナル曲を、Cubaseにて作曲(編曲)中です。

明治の洋画家や詩人を調べているうち、中村彝(つね)が没後90年を迎えたことを知りました。
私はこの人の名前よりも、「カルピスの包み紙のある静物」の画の方を知っていましたが、カルピスという飲み物が当時、病人への滋養になるという話を改めて知り、結核を患いながら画を描き続け、そして恋に破れ、37歳という短い生涯を終えた中村彝という人に強い関心を抱いたのです。

そうして今回、試しにそのイメージを音にしてみようと、言わば《音のデッサン》的な実験のつもりで、ピアノ音源を鳴らしました。
 
Cubase Pro 8のメイン画面
昨年、アップグレードしたCubase Pro 8を使って、“手弾き”で少しずつ打ち込んでいきましたが、アップグレードした機能については、今のところ使用する機会がないので、よく分かりません。私はCubaseでMIDIデータを打ち込んで、Pro Toolsに移し替えてレコーディングするというスタイルを取っているので、Cubaseの半分以上の機能を使わないのです。ただ見栄えも含めて、昔と比べて立派になっていってるのは感じられます。

「肖像」のピアノのキー・エディター画面
ピアノ音源は、私のお気に入りのMODARTT Pianoteq 5 PROを使用していますが、昨年上半期の作品と比較して、オーディオ・インターフェースやクロック・ジェネレーター(Antelope Audio Isochrone OCX)が変わったために、狙い通りかなり出音が前に出るようになりました。そういったことから、今後、ヴォーカルとのバランスについては細心の注意が必要だと感じました。

「肖像」の制作は断続的に続けます。
ヴォーカルを入れるつもりなので、大まかな歌詞を書き始めていますが、ある意味堅固な内容になるのではないかと思っています。
伴奏はピアノのみにするか、別のパートを一つ加えるか。そのあたりは今後の制作として考えなければなりませんが、今回のピアノへのファースト・アプローチで、もうその世界観はほぼ出来上がってしまっています。

それはそうと、中村彝の絵画を間近で観る機会があれば、と思っています。瓶詰めのカルピスなんて最近すっかり飲んでいないから、そのあたりも体験しなければいけないでしょうか。

2015/01/20

「故郷の空」のミキシング

唱歌「故郷の空」のミキシングについて解説します。

前回、ヴォーカル録りにはiOSアプリ[hibiku]を使用したことを書きました。本来的にこのアプリは、サウンド・スケープを楽しむ目的で、iPad&iPhoneの内蔵マイクから環境音を集音して超ロングリバーブを付加して楽しむものです。
私の唱歌「海」やこの「故郷の空」での手法はヴォーカルに付加するという意味でオーソドックスな手法であり、あまり面白いものではありません。ですが、ヴォーカルのメロディがその超ロングリバーブの影響でどう引っ張られるのか、変化するのかという部分で、リアルタイムでそれを感じつつ歌のメロディを変化させていく試みは、なかなか実験的で緊張感の伴う作業でした。

ピアノへのCLA-3Aコンプの設定
私は今回、そういった実験を試みる中、「故郷の空」の場合は特に日本語歌詞が明瞭に聴き取れるよう[hibiku]の設定を調整しておこないました。そしてピアノの左右に広がっている音像に対し、深いリバーブに絡まるヴォーカルがセンターでこぢんまり響くようなバランスを取りました。

iOSアプリ[hibiku]は面白遊びのできるアプリです。しかし、ここではそれが主役となってはなりません。Sonnox OXFORD REVERB(プリセットは「EMT 140 2.4sec」でリバーブ・タイムを5.21secに設定)をヴォーカルを含むそれぞれのパートに付加して、全体を“音楽的な”響きに聴感上“手直し”しています。

ピアノへのAPI 550Bの設定
コンプレッサーはすべてWavesのCLA-3Aを使いました。ピアノへのコンプレッションはヴォーカルへの深いコンプレッションと比較して緩めであり、相対的にピアノのレンジが広がっているような感じにしました。EQはAPI 550Bで、ピアノに対しては少し重すぎるローをカットしています。

マスター・フェーダーには磁気テープの温かみを加えるプラグインとSSL 4000Gシリーズのチャンネル・ストリップをインサートして、全体のその音質とレベルを調整(トータル・コンプレッション)し、この段階でラウドネスは整ってしまいました。
したがって、マスタリングではほんの少し低域にエキサイターで熱量を加えた程度で、あとはほとんど何もしていません。

最後に、「故郷の空」を歌った私なりの感想なのですが、何よりも大和田建樹の日本語歌詞が美しいということ。日本語のなめらかさ、歯切れ、リズム、そして言葉の意味の深さ。
美しいというのは危険と表裏一体であるけれども、どこまで日本語は美しいのだろうということを、この曲は体現していると思います。この曲を多くの方に口ずさんでいただけたら、と思います。


2015/01/06

「故郷の空」のレコーディング

先週、「故郷の空」のレコーディングをおこないました。

「故郷の空」は、明治21年『明治唱歌(一)』で発表された唱歌です。原曲「Comin' Through the Rye」というスコットランド民謡の改編であり、改編をおこなったのは奥好義、日本語歌詞は大和田建樹です。

さて、「故郷の空」のレコーディング。
一昨年に制作した唱歌「海」と同じ手法で、ヴォーカル録りはiOSアプリ[hibiku]を使用しました(当ブログ「海―その響きの世界」参照)。iPadからミキサーのMackie 1604-VLZ3に通し、MOTU 828xに入力。MOTU 828xのCueMix FXで薄いコンプ処理を施してからPro Toolsでモノ・レコーディング。すなわちここで録られたヴォーカルは、そのドライ音と[hibiku]の残響(「Church」)のモノーラルになります。

その他の音源は、Pianoteq 5 PROのBlüthner、Native InstrumentsのFM8、REACTORのROUNDSです。

曲全体の調性を少し狂わせるために、もともとト長調の曲を半音下げて変ト長調でヴォーカルを録り、もとのト長調のパッド音と変ト長調のヴォーカルを不協和させるやり方をしています。

私が幼い頃に初めて出合った「故郷の空」は、ある映画の1シーンであり、おそらくそれはト長調だったと思うのですが、それ以来私はこの曲が好きになって、この曲を口ずさむ時は必ず変ト長調でした。

Pro Tools画面。最下のクリップがヴォーカルのOKテイク
もともとのト長調のメロディにおける4小節目のG音、それから一番最後の小節のG音に対してはなんの郷愁も感じず、それをF#にした時に自然と郷愁が湧いてくる、という無意識の働きが、子供の頃にあったのではないかと思うのです。[hibiku]を使った長い残響の効果によって、自分の頭の中で描いていた「故郷の空」の詩の世界がほぼ完全に再現されています。無論、そのためにもともとのメロディを完全に崩した形となっています。

私が唱歌の取り組みで実現させたかったのは、このことであり、楽譜通りに歌うのではなく、自分の中で熟成された歌の世界、詩の世界を音として表現することなのです。

今回のヴォーカル録りは数テイク繰り返しましたが、いずれにしても残響があらかじめ付加されているのでこまかいエディットは不可能…ということで1番から2番を通して一切カッティングしないで歌い上げました。

後日、ミキシングをおこないます。

2014/12/18

「東京マタニティ」のレコーディング

今年2014年の[Dodidn*]は、提供できた楽曲が非常に少なかった点で、残念に思っています。
自宅スタジオのサウンドの核となる部分を機材的に替えたりいじったりしたため、そのチューニングに追われた面があって、公表した作品の数としては少なくなってしまいました。
来年度においては、今年の楽曲数を早い時期に上回ることをお約束いたします。

さて、「東京マタニティ」
ムード歌謡オリジナル・ソングであるこの曲のレコーディングは、既に始まっており、レコーディングとしては残すところ数パートとなっています。完成は来月頃となりそうです。

レコーディング済みの全体アレンジをアナライザーでチェック
当ブログ「東京マタニティ―そのラテンのざわめき」で紹介した通り、ドラムセットはFXpansionの「BFD 3」を使用しました。ムード歌謡なので出音はかなり地味です。
バスドラ、スネア、タム、ハイハットをパラではなく一纏めに録りました。ピアノと同様、ドラムはそれぞれの鳴りの干渉が逆に生っぽさを演出するので、この方が都合が良いのです。プリセットのスネアを他のスネアに差し替えて鳴らしました。
その他のリズム系パートは、ボンゴとコンガで、これにさらに別のパーカッションが加わりますが、それはパーカッション奏者・紺野秀行さんのレコーディングとなり、年内にレコーディングを済ませる予定です。

それからこれは、私の個人的な思い入れなのですが、この「東京マタニティ」のパートに、当初予定になかった“トロンボーン”をプログラミングして加えました。この曲のホーン・セクションでは、トランペットやバリトン・サックスとのアンサンブルとなります。
今年の9月、専門学校での恩師・河辺浩市先生が亡くなりました。河辺先生の思い出については当ブログ「河辺浩市先生のこと」で触れています。先生の、トロンボーンを演奏する姿を偲び、敢えてトロンボーンを加えてみたのです(非力な演奏で河辺先生には怒られるかも知れませんが)。

残されたレコーディングについては、後日終わり次第、ブログします。

2014/11/20

「仰げば尊し」のリマスタリング

2013年春に制作し、アップしていた唱歌「仰げば尊し」を、この度リマスタリングしました。

今年の夏以降の、自宅スタジオにおける様々な試み(オーディオ・インターフェースのチェンジや外部ワード・クロックの導入など)によって、サウンドが良くなったという面を具体的な形で示す意味合いと、新しくなったマスタリング・ツール「OZONE 6」(当ブログ「OZONE 6の使用テスト」参照)を実践的に試す目的で、今回リマスタリングをおこないました。

結果から言うと、今回、リマスタリングのための下ごしらえとして、ミキシングの段階から修整しました。もちろん、パートの変更やヴォーカルのテイク変更などは一切おこなっていません。
ただし、ピアノとヴォーカルの定位関係を改善したいと思い、ピアノの低音部そして高音部の振り分けを施し、ヴォーカルの存在感を際立たせることにしました。逆に言えば、ピアノにはよりいっそう“伴奏役”として脇にまわってもらった形となります。

それから一部、当時のPro Tools 10内で使用していたプラグインが使えなくなっていたため、それらを別のプラグインと差し替えたわけですが、そうなってくるとダイナミクスのバランスがけっこう崩れてしまうので、ほとんどのプラグインを差し替えての調整となりました。
このミキシングの修整で一番重要だったのは、ピアノとヴォーカルそれぞれのだぶついた低域をカットすることでした。

「仰げば尊し」におけるマキシマイザー設定
こうしてやり直してバウンスしたミックス・ファイルを、新規のプロジェクトで改めて読み込み、マスタリングの作業を開始しました。使用したプラグインは前段にIK Multimediaの「Master EQ 432」、後段にiZotopeの「OZONE 6」です。

オリジナルのマスターでは、だぶついた低域があったせいもあり、またマキシマイザーの効きが良すぎたせいもあって、本来おとなしめのピアノがヴォーカルと同じように前面にしゃしゃり出ていたわけですが、そうしたサウンドのディテールを改め、今回のリマスタリングでは、ピアノとヴォーカルの音像の位置関係を重視し、あまり音圧を上げず、それぞれのパートのピークがはっきり分かるようなサウンドに仕上げました。

既にミキシングの段階でトータル・コンプをかけているので、マスタリングの段階ではこれ以上コンプをかけて音圧を上げることはせず、マキシマイザーでのプロセッシングでは、IRCでのナチュラルなリリース・コントロールを選択。音圧の壁にならないよう注意しながら調整しました。

エキサイターで緻密な熱量を加える
こうした調整を施したあと、エキサイターでユニークな効果を思いつきました。

まずミッドに切り替えて、ヴォーカルの中低域を“Dual Triode”で熱量を加え、Master EQ 432もミッドに切り替えて17kHzを少し持ち上げます。
そしてOZONE 6に戻り、エキサイターのサイドに切り替えて、高域を“Tape”で熱量を加えます。
つまり、ヴォーカルを際立たせるため、ピアノに対するエキサイターの効果の質感を変えることで、全体の空気感が特徴的かつ立体的になるのです。
ただしこれは、あくまでちょっとしたさじ加減の調整であり、やり過ぎるとミキシングでの効果が台無しになります。意味もなくいじるのではなく、具体的な指標に沿っておこなうべきだと思います。


2014/11/13

東京マタニティ―Cubaseとの関係

ムード歌謡オリジナル・ソング「東京マタニティ」のプログラミングがほぼ終了した段階ではありますが、Cubaseでの打ち込みに関する個人的な補足をしたいと思います。

「東京マタニティ」のMIDIプログラミングは、Steinberg Cubase 7.5でおこないました。これまで使用していたCubase Artist 7からプログラミングの直前でアップグレードしたのです。

私自身はこれまで述べてきた通り、MIDIプログラミングはCubaseで、レコーディング以降の行程はPro Toolsに移して作業しています。それぞれのソフトウェアの強みと弱点を鑑み、今もこのやり方がベストだと思っています。
私の音楽制作の行程でMIDIプログラミングを担うCubaseについては、昨年まで、“ミドルレンジグレード”と称するCubase Artist 7で十分だと考えていました。ところが。

今年の春、「せつおちゃんのバースデー」のプログラミングの中途の段階で、結論としては、〈もはやCubase Artist 7では自身の制作を担えなくなっている、不十分だ〉と思い知りました。

それにはいくつかの理由がありました。
まず一つ、Cubase Artist 7のインストゥルメントトラック数の制限は32。「せつおちゃんのバースデー」の当初のアレンジ・プランでは軽く32パートを超えていたので、このインストゥルメントトラック数の制限で壁にぶつかり、これを超えるいくつかのパート(特に木管系)の編成をやむなくキャンセルしたのです。

Cubase 7.5のキーエディター(ピアノロール画面)
もう一つ、スコアエディターの制限。
最近顕著に思うことは、オリジナル曲の楽譜化の要請です。
Cubase Artist 7は基本機能しかなく、やはり楽譜化においてはフル機能が必要だと感じました。

それから、OMFの読み込みと書き出しが、Cubase Artist 7ではできないこと。先述したように、私はCubaseでレコーディングやミキシングはしませんが、例えば、他者がマルチ・トラック・レコーディングしたオーディオファイルを聴きながら、追加トラックとして新たにMIDIプログラミングしなければならない時、OMFの読み込みができないと、非常に不便なのです。

こうした理由があって、自身の制作面も進化してきた経緯もあって、Cubase Artist 7→Cubase 7.5へとアップグレードした次第です。

*

ところで、これとは別の、まったく個人的なCubaseに関するトラブルも、今回解消しました。それは、いくつかのVSTプラグインが読み込みできなかったこと。

これは以前から抱えていた問題だったのですが、とても使いたいソフトウェアなのに、Cubaseで読み込みできないので、なくなくレコーディング間際のPro Tools上で簡易的に使うしかなかったという持病的トラブル。

原因は簡単なことでした。それらのVSTプラグインのアップデートファイルが、別のフォルダーに作成されていたため。つまり、本来Cubaseソフトウェアが読み込んでいるVST Pluginフォルダーには、アップデートされていない数年前の古いファイルが置かれているだけだったのです。
アップデートされた新しいファイルを、本来のフォルダーにコピペしたところ、この問題が解消されました。CubaseでもそのVSTプラグインが使えるようになったのです。プラグインのアップデートの際、その処理を1箇所の統一したVST Pluginフォルダーに指定すること。これが重要だったわけです。

2014/11/05

「魚の賛歌」の新しいヴァージョンについて

ニュー・ヴァージョンで使用されたソフトウェア「iris」
ムード歌謡オリジナル・ソング「東京マタニティ」の制作途中、ひょんな成り行きで楽曲「魚の賛歌」(作曲は自己批判ショーの小菅節男氏)の新しいヴァージョンについての構想を思いつき、この新しいヴァージョンの「魚の賛歌」の一部のレコーディングを既に終えています。

ニュー・ヴァージョン「魚の賛歌」は来年の早い時期に完成&公開予定です。

ということで、「魚の賛歌」と新しいヴァージョンについてのご説明をいたします。

私ことUtaroが20年以上前に在籍していた、劇団スパゲッティ・シアターでの公演の劇中歌であった「魚の賛歌」を、2年前つまり2012年にリメイクしたわけですが、それはある程度、オリジナル(1993年)に準じたアレンジでした。

今回の新しいヴァージョンというのは、オリジナルともリメイク版とも準じていない、リミックス的な、そういうものです。
2年前にリメイクした際に、いずれリミックス・ヴァージョンを作ろうと思っていたのですが、残念ながらそのリメイク版を制作した作業データ(レコーディングした複数のオーディオ・ファイルなど)は、ちょうどその直後にPCのトラブルに直面し、結果的に作業データは抹消されてしまいました。

残されたのは、リメイク版のマスターのみでした。
したがって、思い描いていたリミックス・ヴァージョンを作ることができない、ということになっていたのです。

今回の新しいヴァージョンは、そのたった一つ残ったマスターの音をサンプラーにかけて、波形を分解しながらいくつかのループ・フレーズとドローンを抽出し、基本的なバッキングを構成する形で、これに新たなヴォーカルや別のパートを加えるものとなり、リミックスではなく、完全なリレコになります。

ドローン音源として使用された「PRISM」
現時点ではヴォーカルがどのようなものになるか、具体的に述べることは避けますが、抽出した際のサンプラーはiZotope「iris」を用い、その他のサンプルはNative Instruments「PRISM」を使いました。「iris」の抽出はランダム性に長けた面があり、非常に面白い想像を超えたループを形成することができるので、私はよくこのソフトウェアを使います。

「魚の賛歌」リメイク版マスターから抽出されたループ等は、オリジナルを想起することが不可能なほど「魚の賛歌」とは別物となっていて、逆にヴォーカルのパートでは「魚の賛歌」を想起させる、というアレンジになるわけですが、構成に関してはこのようにややこしい話になってしまいます。

ぜひ、この新しいヴァージョンの「魚の賛歌」の完成をお待ちいただければと思います。
うーん、最後にもう一つだけヒント。
ヴォーカルのパートはまったく新しく入れ直します、が…。
それとは別に、先に紹介した「iris」を用いて、なんと1993年オリジナル・ヴァージョンの(20代になりたてだった頃の!)私のヴォーカルを抽出して、これを加える、予定です。あくまで予定ですけれども…。

どうぞ、お楽しみに。