2015/03/19

リプロダクト―「Figure 2.0」

昨年、ヴォーカル・サンプルとして制作した実験曲「Figure」を、この度リプロダクト(再制作)することにしました。それを「Figure 2.0」と呼ぶことにします。

「Figure」の実験は一昨年前の秋に開始され、当時アップグレードされたPro Tools 11はどんなものなのか試そうということと、それまでヴォーカルのレコーディングではあまり使わなかったダイナミック型マイクロフォンは音質的にコンデンサー型と比較してどうなのだろうか、といった主旨で、昨年の2月に完成しています。

あの時の実験を要約すると、こうです。

①ピアノ音源ソフトウェア「MODARTT Pianoteq 4」を使用すること。
②アップグレードされたPro Tools 11の使い勝手を試すこと。
③ダイナミック型マイクロフォン「TELEFUNKEN M81」は音質的にレコーディングに使用できるのかどうか把握すること。
④プラグイン「Sonnox OXFORD REVERB」を使用すること。

そもそも最初はピアノのソロだけでヴォーカル(メロディ)をダビングするつもりはありませんでした。その場の思いつきで鍵盤を弾き、Pro Toolsでピアノを録ってから、2ヵ月経過してヴォーカルをダビングしたわけです。最初からメロディや歌詞、曲のタイトルがあったわけではないのです。ですが、以上の実験項目はだいたい飲み込むことができました。
そうやってバタバタとした実験の中で出来上がったこの短い曲を、今の熟知された(チューンアップされた)システムでもう一度冷静に録っておきたい、と思うようになりました。実験ではなく、あくまで純粋な曲として。個々の実験は既にクリアされているわけですから、純粋にこの曲のもつ響きに取り組んでみたくなったのです。

今回のリプロダクトの準備として、ピアノ・ソロをノートに記譜しておきました。
あの時はほとんど即興でPro Toolsに録られ、そのままオーディ・クリップの状態となっていたので、和音の関係が把握できていませんでした。今回、KORGのデジタル・ピアノ「SP-280」でリハーサルをし、後日CubaseでMIDIシーケンスにして修整した後、Pro Toolsに移行します。

リプロダクトする「Figure 2.0」はまったく同じアレンジとパート構成で、「MODARTT Pianoteq 5 Pro」のピアノ+所有するいずれかのコンデンサー型(もしくはリボン型)マイクロフォンによるヴォーカルという組み合わせになります。
制作進行次第、追ってご報告いたします。

2015/03/12

「魚の賛歌」のマスタリング

「魚の賛歌 [2015 Special Edition]」のマスタリングについて書きたいと思います。マスタリングで使用したプラグインは、IK MultimediaのMaster EQ 432とiZotope OZONE 6です。

この曲のサウンド・コンセプトは、「透明感のある音像」で、「魚の賛歌」における《深海》だとか《海底》といった世界観を表しています。

OZONE 6でステレオを補整する
そうした「透明感」を引き出すためには、機材の性能が非常に重要で、言い換えればフラットであること。EQでサウンドのクセを出したり、コンプを深くかけないことが前提となります。
幸い、オーディオ・インターフェースで使用したMOTU 828xの余裕のあるレンジ感が功を奏し、クロック・ジェネレーターAntelope Audio Isochrone OCXによる高い精度でのデジタル・サウンドが、どの程度なものかを測る物差しとしても、「魚の賛歌 [2015 Special Edition]」は、極端なダイナミクス調整とイコライジングを避けた作りとなっています。

つまり、この曲に感じられる透明感と奥行きのある音像は、ほぼミキシングの段階で出来上がっているものであり、マスタリングで大きくいじられたものではありません。

ミキシングの段階では、それぞれのパートのピークを抑えつつ、ゲインアップが施され、全体の音圧はそれほど薄いものではありませんでしたが、やはりもう少し厚みが欲しいということで、マスタリングの段階で、まずOZONE 6のステレオ・イメージャーを使って低域と中高域を少しワイドにしています。
さらにマキシマイザーでは、3.0dBほど音圧を上げて、全体のサウンドの厚みを増した形にしています。ここで大切なのは、リリース・タイムを短く設定して、もともとのレンジを聴感上狭めないことです。

Master EQ 432を使って高域を補整
こうして全体のサウンドが分厚くなったため、特にヴォーカルの高域が少しきつくなった気がしたので、Master EQ 432で13kHzあたりをわずかにカット、そのかわり2kHzをわずかにブーストしました。

もし一昔前に、同じ手法でこうした音像を作ろうとしたら、あちらこちらでピークが0dBを超えて歪んでいたでしょう。低域から高域にかけてステレオ・ワイドに、なおかつ分厚いサウンドを作る、というのは至難の技でした。「魚の賛歌 [2015 Special Edition]」は特殊なミキシング&マスタリングの手法であると、言えると思います。

2015/02/27

フィジカル・フェーダーの復活

PreSonus FaderPort
つい昨日、自宅スタジオにフィジカル・フェーダー・コントローラーの「PreSonus FaderPort」を導入しました。
これはUSB接続によるフィジカル・フェーダーで、Pro ToolsなどのDAWのフェーダー(トラック・ヴォリューム)を、1トラックずつ手動で調整できるコントローラーです。それ以外にもパンやオートメーション・モードの切り替え、ウインドウの切り替え、トランスポートなどの機能をフィジカルに操作することができます。

実はPreSonusのFaderPortは、6年ほど前まで使っていました。Pro ToolsをラップトップのPCで使っていましたが、USBの制約でFaderPortの使用を諦め、フェーダーはマウスで操作すると完全に割り切り、売却してしまったのです。

Pro Toolsのオートメーション機能の充実によって、そういう割り切り方は十分可能であり、むしろマウスを使ってのフェーダー操作に慣れていたほどです(ショートカット機能を駆使してフェーダーを微調整したり)。

[Dodidn*]ホームページのコラム「多重録音ということ」の中で少し触れていますが、ミキサーのフェーダーぐらい、自分の手というか指で動かそうという結論に至りました。

オートメーション機能で書き込むミュートON/OFFは、とても便利で作業効率が良いので、ヴォーカルの処理でフルに活用していました。が、フェーダーを急速に-3dB下げるとか-6dB下げて一気に持ち上げる、といった技をアナログ卓時代にやっていた頃のヴォーカルの空気感と比較すると、やはりそれをやった方が独特の空気感が付くのです。

厳密に言えばそれはブレス・ノイズであったり、僅かな空調ノイズであったりするのですが、それがヴォーカルのアクセント毎に上がったり下がったりした方がサウンド的に格好いい。これをマウスでやるとすれば、急速の上げ下げはけっこう難易度が高いので、オートメーション機能のlatch & touchを要所要所でこまかく使い分けなければなりません。結果、無難なヴォリュームの変化になって、ヴォーカルの空気感を伴った表情は個性を失ってしまうのです。

そう、ヴォーカル・サウンドの表情は「指」で作るもの。

そういうことを考えて、我が自宅スタジオでは、もう一度フィジカル・フェーダーを導入し、その持ち味を活かすことにしました。

2015/02/24

「魚の賛歌」スペシャル・エディション

大活躍したソフトウェア「iris 2」
先週、「魚の賛歌 [2015 Special Edition]」のレコーディング及びミキシングをおこないました。このヴォーカル曲は昨年の秋から既にレコーディングが始まっており、当ブログ「『魚の賛歌』の新しいヴァージョンについて」で詳細を書いています。

2012年のリメイク版「魚の賛歌」は、1993年オリジナルによる転調性やコード進行を遵守せず、異なった編曲構成となっていますが、今回の「魚の賛歌 [2015 Special Edition]」も同様、オリジナルとはまったく別物であることを先に断っておきたいと思います。

ミキシング途上段階でのPro Tools画面
昨年秋、この曲のレコーディングで使用したサンプラー&シンセ・ソフトウェアiZotope「iris」は、年をまたいで「iris 2」とアップグレードし、この曲のダビングにおいてそちらも使用しました。
私が「魚の賛歌 [2015 Special Edition]」でイメージした“深海”あるいは“海底”を音で表現するための手段として、「iris」又は「iris 2」を使用したわけですが、実はそのサンプリングの音源は、1993年オリジナルの「魚の賛歌」とリメイク版そのものなのです。このサンプリングされたパートは複数あって音を重ねており、まったく原形をとどめておりませんが…。

言わばその“音の海”をバッキングにして、今回改めてリード・ヴォーカルを録りました(やはりこのメロディも転調性を無視して簡素化)。使用したマイクロフォンはNEUMANN TLM49です。

柔らかい効きのFG-Greyコンプ
サンプリングされたパートのいくつかは2chにまとめられ、SLATE DIGITALのコンプレッサー「FG-Grey」でダイナミクスを調整し、その柔らかい効きの音色を活かし、他のパートとのミキシングが図られました。

「魚の賛歌 [2015 Special Edition]」の制作で私はいろいろなことを試み、多くの音楽的発見がありました。それは調性の問題やリズムの問題、リード・ヴォーカルの意義について、など。
これらの問題とデジタル・レコーディングの進化は必ずしも無関係ではありませんが、何をテーマに作るのか、何を表現するのか、といった部分の根本は、オリジナルも今回のスペシャル・エディションも中身が変わらないのだということに気づいたわけです。

2015/02/10

OP-1を使ったインスタレーション

Teenage Engineering OP-1
Teenage Engineeringの小型シンセ「OP-1」の巷の人気は、留まることを知らないように思います。
個人的にもっとこのOP-1を使った作品をアップしていこうと思い立ち、「OP-1を使ったインスタレーション」という括りのもと、不定期でOP-1での制作作品を挙げていきたいと考えています。

その中身はほとんど実験寄りの、ラジオのジングルのようなものを考えていますが、この「OP-1を使ったインスタレーション」では、①Cubaseを使わない、②あくまでOP-1+Pro Toolsで制作するというスタイルを貫こうと思います。

今回は、50秒弱のジングルとして、「Red Beans」というタイトルを付けたインスト曲を制作しました。

OP-1のPATTERN FINGER DRUMS機能でリズムを作り、複数のシンセサイザー・エンジンの中から一つチョイスした音源でコードを、OP-1の4トラックテレコ機能で録音。
これをPro Toolsで録った上、さらにOP-1の別のシンセ・エンジンよりMUSIC BOXの音を選んでオーバー・ダブ。全3パート。

アビイ・ロード・スタジオJ37 Tape
いつも私がOP-1で何かを打ち込む時は、内蔵スピーカーでモニターしながら作るので注意しているのですが、意外とOP-1は出音が太い。内蔵スピーカーだとその太さがよく分からない。
そもそもOP-1は24bit/96kHz処理で解像度が高く、レンジ感があります。したがって、レコーディングの際は当然適正なモニタリングの中で、改めて全体のサウンドを聴き直し、低域が足りないのか、あるいは逆に出過ぎているのかをチェックしながら、出音のバランスを調整します。尚、レコーディングの際のケーブルの善し悪しがサウンドに大きく響くため、私はOYAIDEのHPC-35Rを使っています。

Waves CLA-2Aコンプ
そして、ミキシング。
このOP-1の録り音に、J37 Tape→CLA-2A→API 550Bというルートでプラグインをインサート。あまり録り音のニュアンスを壊したくないので、J37 Tapeでは控えめな処理をしていますが、バスドラのコシやタンバリン系のサウンドが少し変化して、歪み成分が加わっています。そして高域がやや耳障りだったので、API 550Bで8kHzを少しカット、20kHzをシェルで+2dBブーストしています。

マスター・トラックには、アビイ・ロード・スタジオのEMI TG12345を挿し、少しゲインを上げました。

アビイ・ロード・スタジオEMI TG12345
以前であれば、OP-1の出音に対し、もっとコンプやEQで色付けせざるを得なかったかも知れません。しかし昨年来からおこなってきた、自宅スタジオのI/Oやケーブル、クロック・ジェネレーターなどのチューニングによって、録りの段階で音像がしっかりとしたものとなっているので、そうしたプラグインで過度にいじる必要がなくなってきたように思います。

OP-1自体は、“小型シンセ”だとか“大人のオモチャ”的なイメージがあるのですが、シンセサイザーとしての遊びもけっこう高度なもので、出音も決して安物的なオモチャではありません。機体の鍵盤の作りなどを見ても、実に良く出来ていると思います。
真の意味での“大人のオモチャ”を、いかにして遊び尽くすか。これをもって「OP-1を使ったインスタレーション」の信念とさせていただきます。


2015/01/22

「肖像」を考える

「肖像」というピアノの伴奏によるオリジナル曲を、Cubaseにて作曲(編曲)中です。

明治の洋画家や詩人を調べているうち、中村彝(つね)が没後90年を迎えたことを知りました。
私はこの人の名前よりも、「カルピスの包み紙のある静物」の画の方を知っていましたが、カルピスという飲み物が当時、病人への滋養になるという話を改めて知り、結核を患いながら画を描き続け、そして恋に破れ、37歳という短い生涯を終えた中村彝という人に強い関心を抱いたのです。

そうして今回、試しにそのイメージを音にしてみようと、言わば《音のデッサン》的な実験のつもりで、ピアノ音源を鳴らしました。
 
Cubase Pro 8のメイン画面
昨年、アップグレードしたCubase Pro 8を使って、“手弾き”で少しずつ打ち込んでいきましたが、アップグレードした機能については、今のところ使用する機会がないので、よく分かりません。私はCubaseでMIDIデータを打ち込んで、Pro Toolsに移し替えてレコーディングするというスタイルを取っているので、Cubaseの半分以上の機能を使わないのです。ただ見栄えも含めて、昔と比べて立派になっていってるのは感じられます。

「肖像」のピアノのキー・エディター画面
ピアノ音源は、私のお気に入りのMODARTT Pianoteq 5 PROを使用していますが、昨年上半期の作品と比較して、オーディオ・インターフェースやクロック・ジェネレーター(Antelope Audio Isochrone OCX)が変わったために、狙い通りかなり出音が前に出るようになりました。そういったことから、今後、ヴォーカルとのバランスについては細心の注意が必要だと感じました。

「肖像」の制作は断続的に続けます。
ヴォーカルを入れるつもりなので、大まかな歌詞を書き始めていますが、ある意味堅固な内容になるのではないかと思っています。
伴奏はピアノのみにするか、別のパートを一つ加えるか。そのあたりは今後の制作として考えなければなりませんが、今回のピアノへのファースト・アプローチで、もうその世界観はほぼ出来上がってしまっています。

それはそうと、中村彝の絵画を間近で観る機会があれば、と思っています。瓶詰めのカルピスなんて最近すっかり飲んでいないから、そのあたりも体験しなければいけないでしょうか。

2015/01/20

「故郷の空」のミキシング

唱歌「故郷の空」のミキシングについて解説します。

前回、ヴォーカル録りにはiOSアプリ[hibiku]を使用したことを書きました。本来的にこのアプリは、サウンド・スケープを楽しむ目的で、iPad&iPhoneの内蔵マイクから環境音を集音して超ロングリバーブを付加して楽しむものです。
私の唱歌「海」やこの「故郷の空」での手法はヴォーカルに付加するという意味でオーソドックスな手法であり、あまり面白いものではありません。ですが、ヴォーカルのメロディがその超ロングリバーブの影響でどう引っ張られるのか、変化するのかという部分で、リアルタイムでそれを感じつつ歌のメロディを変化させていく試みは、なかなか実験的で緊張感の伴う作業でした。

ピアノへのCLA-3Aコンプの設定
私は今回、そういった実験を試みる中、「故郷の空」の場合は特に日本語歌詞が明瞭に聴き取れるよう[hibiku]の設定を調整しておこないました。そしてピアノの左右に広がっている音像に対し、深いリバーブに絡まるヴォーカルがセンターでこぢんまり響くようなバランスを取りました。

iOSアプリ[hibiku]は面白遊びのできるアプリです。しかし、ここではそれが主役となってはなりません。Sonnox OXFORD REVERB(プリセットは「EMT 140 2.4sec」でリバーブ・タイムを5.21secに設定)をヴォーカルを含むそれぞれのパートに付加して、全体を“音楽的な”響きに聴感上“手直し”しています。

ピアノへのAPI 550Bの設定
コンプレッサーはすべてWavesのCLA-3Aを使いました。ピアノへのコンプレッションはヴォーカルへの深いコンプレッションと比較して緩めであり、相対的にピアノのレンジが広がっているような感じにしました。EQはAPI 550Bで、ピアノに対しては少し重すぎるローをカットしています。

マスター・フェーダーには磁気テープの温かみを加えるプラグインとSSL 4000Gシリーズのチャンネル・ストリップをインサートして、全体のその音質とレベルを調整(トータル・コンプレッション)し、この段階でラウドネスは整ってしまいました。
したがって、マスタリングではほんの少し低域にエキサイターで熱量を加えた程度で、あとはほとんど何もしていません。

最後に、「故郷の空」を歌った私なりの感想なのですが、何よりも大和田建樹の日本語歌詞が美しいということ。日本語のなめらかさ、歯切れ、リズム、そして言葉の意味の深さ。
美しいというのは危険と表裏一体であるけれども、どこまで日本語は美しいのだろうということを、この曲は体現していると思います。この曲を多くの方に口ずさんでいただけたら、と思います。