2015/04/16

「Figure 2.0」塑像から完成形をめざす

先月より開始した「Figure 2.0」のリプロダクトを進めています(当ブログ「リプロダクト―『Figure 2.0』」参照)。

ノートへ記譜されていた簡単なピアノ譜をもとに、Steinberg Cubase Pro 8にそれを打ち込みました。手弾きです。
一昨年前にPro Toolsで即興的に弾いた時は、ある種の勢いというものがあって、全体の流れが良くも悪くも感覚に寄りかかっていました。
今回は半分冷静沈着に、全体のテンポはいかほどか? ここのテヌートは? ここのフェルマータはどれほど伸ばす? ということを考え、しかもどこでヴォーカルのメロディが入るのか分かっているのですから、あの時よりはやや伴奏的になるわけです。とは言え、私はピアニストではないので、Cubaseというテーブルあればこその戦略であり、演奏家としてのそれではないことを付け加えておきます。

ピアノのモデリング・ソフトウェア音源「MODARTT Pianoteq 5 Pro」は、もう私にとって最も稼働率の高い有力なソフトウェアです。今度の「Figure 2.0」のピアノはどれを選択すべきか、しばし悩みました。結局は“D4 Classical BA”を選択しました。

もちろんここでの選択は、あくまでCubaseでのプログラミングのための選択なのですが、レコーディング時に音源を差し替えるつもりはないので、ここでの選択が最終判断となっています。また、ペダルでの音色の変化も今回は考慮しました。

MODARTTのホームページによるとD4は、ハンブルクからSteinway Dグランドピアノを取り寄せ云々とあり、そのキャラクターがモデリングされたそうです(ちなみに本物のD-274の価格は2千万円以上です)。
私がD4を選ぶ理由を挙げるならば、どことなく“器械的”だからです。器械の音がすると――。その器械的な硬さと反響の柔らかさが絶妙で、モデリング上、ハンマーで叩かれる際の音の強弱が複雑なニュアンスを引き出してくれるのです。

CubaseにMIDI記録された「Figure 2.0」
弾こうとするテンポとCubaseのメトロノームをある程度合致させ、CubaseをRecにして走らせます。そして鍵盤で演奏します。演奏した通りのベロシティも記録されます。修整の際、ノートのタイミングやベロシティを調整するのですが、あまり酷い場合はもちろん演奏をやり直します。

Pianoteq 5 Proでは音源のアウトプットの設定で、擬似空間に設置する数種類の擬似マイクロフォンを選ぶことができます。デフォルトではU87になっていましたが、今回はC414 omni(AKG C-414の全指向性)に切り替え、中域が比較的フラットに聴こえるよう考慮しました。ずばりそれはヴォーカルの中域成分とぶつからないようにするためです。
ピアノの音像を少しワイドにすれば、ピアノの中域の出っ張りはヴォーカルにさほど影響を与えませんが、全体の音像のバランスがそれによって崩れることもあります。曲調にもよりますが、ピアノの音像がセンターに近い場合、つまりあまりワイドにしない場合、そのままでは中域成分がぶつかってしまうので何らかの後処理が必要になるでしょう。
(擬似)マイクロフォンの特性を活用して事前に音源のアウトプットを調節しておけば、この問題は解決します。今回はヴォーカルが入ることを事前に分かっているため、こういう調整をしたのです。

一昨年前にレコーディングし、昨年制作した「Figure」のピアノは直接Pro Toolsで録りました。今回の「Figure 2.0」は改めて自分がこの曲を理解するため、このように敢えてCubaseで作業しました。後日Pro Toolsでレコーディングします。

2015/04/14

「Summer Girl Fashion」的サウンド

インスト未完曲「Summer Girl Fashion」のレコーディング&ミキシングについて解説したいと思います。

他の稿で何度となく書き記している通り、この曲で使用したシーケンサー、YAMAHA QY-700は今となっては旧態とした打ち込み機材ではあります。プロの方でもいまだに使用し続けている人がいるという話を聞いたりすると、正直驚きの念を隠せない部分があるのですが、打ちづらくちまちまとした面が逆にアレンジに生かされて、そうしたスタイル特有の楽曲を作り出しているのではないか、と思ったりもします。
昨今の日本のコマーシャル・ミュージックの傾向を鑑みると、和声の荘厳さよりリズムの軽快感を重要視している、それが流行りなのではないかということが感じられ、そうなるとQY-700のような旧態シーケンサーの方が生きてくるのではないでしょうか。

さて、最終的に仕上げた「Summer Girl Fashion」のサウンドというのは、かつて私がQY-700を現役機材として使っていた頃のサウンドとはまったく別物、と思っています。
昔は所有していた機材がしょぼく、コンプレッサーやEQを自在に扱うことが不可能で、もっとナローなサウンドでした。

今回、BELDEN 8410ケーブルを使用してQY-700からのOUTPUT 2chをPro Toolsで取り込み、ミキシングでいくつかのプラグインをかましています。インサート順列としては、J37 Tape→SLATE DIGITALのVBC FG-MU→API 550Bで、クリアだったデジタル・サウンドがこれらを通って一気にアナログ・サウンドに変化しました。

VBC FG-MUコンプレッサー
VBC FG-MUは、Fairchild 670とMANLEY VARIABLE MUを模したチューブタイプのヴィンテージ・コンプレッサーで、チューブ独特のサウンドが得られます。
ただ、QY-700のドラムセットのハイハットやタムがそもそもハードにコンプレッションされたようなサウンドになっているため、かけすぎるとこれらのパートが目立ち、コントラストが強くなってしまいます。そのため、後段のAPI 550Bでは、100Hzあたりの低域を持ち上げつつ10kHzあたりの高域を抑えています。

往年のテープ・レコーダーを模したMAGNETIC II
マスター・トラックにインサートしたプラグインは2つ。NOMAD FACTORYのMAGNETIC II→WavesのSSL 4000Eチャンネル・ストリップ。ここではSTUDER A820プリセットでその磁気テープ感を醸し出した後、SSL 4000EのEQで超高域と超低域を少し削り、カマボコ型に。
ちなみに、A820は私が卒業した千代田学園のスタジオで使用していたマスター・レコーダーであり、その時のサウンドは当時のメモリアルCDによって参照できる個人的なリファレンス・サウンドとなっています。A820サウンドは言わば私にとってスタンダードなアナログ・サウンドなのです。

実際今回、QY-700の音源をPro Toolsに取り込んでみて、しょぼくなると思っていたサウンドが意外にも、ケーブルやらプラグインやらの処理でけっこう聴けるサウンドになったことはびっくりしました。以前にもQY-700サウンドの実験をしました(ホームページの「実験コーナー/QY-700の音を探る簡易レコーディングテスト」)が、その時は当時のサウンドを再現していたので、今回のように的確な処理を施した場合のサウンドは初めて聴いたのです。

QY-700は打ちづらく制作しづらい、という面があるにせよ、サウンド的にはけっこういい音してるなということが分かり、懐かしさ以上に新鮮な発見をしたように思います。

2015/04/09

リズム・セクションの構築

KORG electribe
作曲のプロセスは、「メロディ」から生まれるか、「コード」から生まれるか、「リズム」から生まれるか、の3つの偶然性を含んだ《発端》をエレメントにし、そこから相互に創造を派生させていく、という流れにあります。ところが、それを促し制御する器械(器官)や装置が欠如していたならば、エレメントは生まれるわけがありません。

作曲とアレンジというのは、常に偶然性を孕んでいます。それは偶然と法則の構築であるとも言えます。
私の場合、口ずさんだメロディが気に入ってヴォイスレコーダーに取り込むこともあれば、ピアノをいじって「メロディ」や「コード(進行)」、「リズム」を生むこともあります。
しかし、作曲における3つの偶然性を客観的に考えると、どうも「リズム」が発端になるケースが非常に少なかったのです。それは単純に、あらゆる場や局面において《発端》を感受できるリズム的性質の器械(器官)や装置が欠如していたから。

Teenage Engineering OP-1はその一つでありました。リズムを生む装置としては非常に面白いのですが、作曲という面では個体のキャラが強すぎて汎用性に欠ける。ドラムキットのソフトウェア音源であるBATTERYやBFD、あるいはMASCHINEなどは主力として使用してはいますが、「リズム」からの作曲のためにいちいちPCを立ち上げるのは面倒。あくまでアレンジ向き。
数年前までは、ALESIS SR16というドラムマシンを使って、「リズム」からのアプローチを試みたことがありました。が、やはり作曲には不向きでした。

作曲段階からアレンジまで、すべてまかなえる優れたマシンはないか、とここ数年来ずっと探し求めていたところ、ようやく見つけ出したのが、KORG electribeです。

16のパッド(パート)にそれぞれ別の音色を割り当て、トリガーとして最大16パートのパターンを作る。
ドラム&パーカッション音色のみならず、エレピ系、シンベ系、ギター系、リード系、パッド系、SE系の音色も搭載。
言わずもがな、ドラム&パーカッション音色以外の音色でもリズム・トリガーになります。
しかもこれらの最大16パートを、シンセ・エンジンによって個別にシンセサイジング&エフェクトでき、オートメーション機能を使って自由自在にサウンドを変化させることができる。

もうここまで書けば、electribeが作曲に向いていることが分かると思いますが、16パートのやりとり(行き来)がきわめて楽であること、幅が34センチと小さく持ち運びしやすいこと。電池駆動可。これらはかなり重要なことです。つまりどこででも「リズム」からの作曲とそれ自体の演奏ができるようになります。

私が使う場合、作ってストック(SDカードに保存)しておいたelectribeのデモ・パターンを、Cubaseと連携してそのMIDIデータを16パート分吸い出し、Cubase上で個別にそれらのデータを本チャン用にエディットしていく、という流れになります。一旦Cubaseにデータを吸い出してしまえば、あとはelectribeは音源として機能するのみです。この段階になれば、例えばリード系やパッド系を別のソフトウェア音源に差し替えることもできることは言うまでもありません。

2015/03/31

シャカシャカシャカっとウォッシュボード

紺野さん自家製のウォッシュボード
公開中のムード歌謡「東京マタニティ」のレコーディングについて、補足的に一部紹介したいと思います。

何と言っても今回のレコーディングで重要な役割を果たしたのが、ラテンのリズムを刻むパーカッションであり、そのうちの一つを担当してくれたのが、自己批判ショーのメンバーである紺野秀行さんなのです。今回特別に、この曲のために参加していただきました。

この曲のセンターあたりでシャカシャカシャカっと聴こえる音。これが紺野さんの秘密兵器である自家製“ウォッシュボード”の音なのです。

ウォッシュボードは文字通り洗濯板なのですが、紺野さんの洗濯板には、zildjianとSABIANのシンバル、赤い色のカウベルや計量カップ、缶詰の缶などが装着されていまして、指貫(ゆびぬき)を指にはめ、擦ったり叩いたりして演奏するわけです。

自己批判ショーで大活躍中の紺野秀行さん
私も実際にウォッシュボードの生音を聴くまでは、もっと鋭い金属音が出るのかと思ったのですが、意外と柔らかい。シャカシャカシュコシュコシュワシュワ…といった音で、ワウフラッターのエフェクト音のような高域周波数のムラが発生します。これが紺野さんの演奏の妙味でもある。

このウォッシュボードのレコーディングでは、SONY C-38Bのコンデンサー型マイクロフォンを使って録り、ミキシング時で他のリズム・セクションのパートとミックスし、WavesのDBX 160コンプに通しました。

「東京マタニティ」のどこかコミカルでコケティッシュな雰囲気は、このウォッシュボードのパーカッションに由来していると私は感じます。とても思い出深いレコーディングとなりました。紺野さんには別の企画でも、参加していただきたいと考えています。

2015/03/19

リプロダクト―「Figure 2.0」

昨年、ヴォーカル・サンプルとして制作した実験曲「Figure」を、この度リプロダクト(再制作)することにしました。それを「Figure 2.0」と呼ぶことにします。

「Figure」の実験は一昨年前の秋に開始され、当時アップグレードされたPro Tools 11はどんなものなのか試そうということと、それまでヴォーカルのレコーディングではあまり使わなかったダイナミック型マイクロフォンは音質的にコンデンサー型と比較してどうなのだろうか、といった主旨で、昨年の2月に完成しています。

あの時の実験を要約すると、こうです。

①ピアノ音源ソフトウェア「MODARTT Pianoteq 4」を使用すること。
②アップグレードされたPro Tools 11の使い勝手を試すこと。
③ダイナミック型マイクロフォン「TELEFUNKEN M81」は音質的にレコーディングに使用できるのかどうか把握すること。
④プラグイン「Sonnox OXFORD REVERB」を使用すること。

そもそも最初はピアノのソロだけでヴォーカル(メロディ)をダビングするつもりはありませんでした。その場の思いつきで鍵盤を弾き、Pro Toolsでピアノを録ってから、2ヵ月経過してヴォーカルをダビングしたわけです。最初からメロディや歌詞、曲のタイトルがあったわけではないのです。ですが、以上の実験項目はだいたい飲み込むことができました。
そうやってバタバタとした実験の中で出来上がったこの短い曲を、今の熟知された(チューンアップされた)システムでもう一度冷静に録っておきたい、と思うようになりました。実験ではなく、あくまで純粋な曲として。個々の実験は既にクリアされているわけですから、純粋にこの曲のもつ響きに取り組んでみたくなったのです。

今回のリプロダクトの準備として、ピアノ・ソロをノートに記譜しておきました。
あの時はほとんど即興でPro Toolsに録られ、そのままオーディオ・クリップの状態となっていたので、和音の関係が把握できていませんでした。今回、KORGのデジタル・ピアノ「SP-280」でリハーサルをし、後日CubaseでMIDIシーケンスにして修整した後、Pro Toolsに移行します。

リプロダクトする「Figure 2.0」はまったく同じアレンジとパート構成で、「MODARTT Pianoteq 5 Pro」のピアノ+所有するいずれかのコンデンサー型(もしくはリボン型)マイクロフォンによるヴォーカルという組み合わせになります。
制作進行次第、追ってご報告いたします。

2015/03/12

「魚の賛歌」のマスタリング

「魚の賛歌 [2015 Special Edition]」のマスタリングについて書きたいと思います。マスタリングで使用したプラグインは、IK MultimediaのMaster EQ 432とiZotope OZONE 6です。

この曲のサウンド・コンセプトは、「透明感のある音像」で、「魚の賛歌」における《深海》だとか《海底》といった世界観を表しています。

OZONE 6でステレオを補整する
そうした「透明感」を引き出すためには、機材の性能が非常に重要で、言い換えればフラットであること。EQでサウンドのクセを出したり、コンプを深くかけないことが前提となります。
幸い、オーディオ・インターフェースで使用したMOTU 828xの余裕のあるレンジ感が功を奏し、クロック・ジェネレーターAntelope Audio Isochrone OCXによる高い精度でのデジタル・サウンドが、どの程度なものかを測る物差しとしても、「魚の賛歌 [2015 Special Edition]」は、極端なダイナミクス調整とイコライジングを避けた作りとなっています。

つまり、この曲に感じられる透明感と奥行きのある音像は、ほぼミキシングの段階で出来上がっているものであり、マスタリングで大きくいじられたものではありません。

ミキシングの段階では、それぞれのパートのピークを抑えつつ、ゲインアップが施され、全体の音圧はそれほど薄いものではありませんでしたが、やはりもう少し厚みが欲しいということで、マスタリングの段階で、まずOZONE 6のステレオ・イメージャーを使って低域と中高域を少しワイドにしています。
さらにマキシマイザーでは、3.0dBほど音圧を上げて、全体のサウンドの厚みを増した形にしています。ここで大切なのは、リリース・タイムを短く設定して、もともとのレンジを聴感上狭めないことです。

Master EQ 432を使って高域を補整
こうして全体のサウンドが分厚くなったため、特にヴォーカルの高域が少しきつくなった気がしたので、Master EQ 432で13kHzあたりをわずかにカット、そのかわり2kHzをわずかにブーストしました。

もし一昔前に、同じ手法でこうした音像を作ろうとしたら、あちらこちらでピークが0dBを超えて歪んでいたでしょう。低域から高域にかけてステレオ・ワイドに、なおかつ分厚いサウンドを作る、というのは至難の技でした。「魚の賛歌 [2015 Special Edition]」は特殊なミキシング&マスタリングの手法であると、言えると思います。

2015/02/27

フィジカル・フェーダーの復活

PreSonus FaderPort
つい昨日、自宅スタジオにフィジカル・フェーダー・コントローラーの「PreSonus FaderPort」を導入しました。
これはUSB接続によるフィジカル・フェーダーで、Pro ToolsなどのDAWのフェーダー(トラック・ヴォリューム)を、1トラックずつ手動で調整できるコントローラーです。それ以外にもパンやオートメーション・モードの切り替え、ウインドウの切り替え、トランスポートなどの機能をフィジカルに操作することができます。

実はPreSonusのFaderPortは、6年ほど前まで使っていました。Pro ToolsをラップトップのPCで使っていましたが、USBの制約でFaderPortの使用を諦め、フェーダーはマウスで操作すると完全に割り切り、売却してしまったのです。

Pro Toolsのオートメーション機能の充実によって、そういう割り切り方は十分可能であり、むしろマウスを使ってのフェーダー操作に慣れていたほどです(ショートカット機能を駆使してフェーダーを微調整したり)。

[Dodidn*]ホームページのコラム「多重録音ということ」の中で少し触れていますが、ミキサーのフェーダーぐらい、自分の手というか指で動かそうという結論に至りました。

オートメーション機能で書き込むミュートON/OFFは、とても便利で作業効率が良いので、ヴォーカルの処理でフルに活用していました。が、フェーダーを急速に-3dB下げるとか-6dB下げて一気に持ち上げる、といった技をアナログ卓時代にやっていた頃のヴォーカルの空気感と比較すると、やはりそれをやった方が独特の空気感が付くのです。

厳密に言えばそれはブレス・ノイズであったり、僅かな空調ノイズであったりするのですが、それがヴォーカルのアクセント毎に上がったり下がったりした方がサウンド的に格好いい。これをマウスでやるとすれば、急速の上げ下げはけっこう難易度が高いので、オートメーション機能のlatch & touchを要所要所でこまかく使い分けなければなりません。結果、無難なヴォリュームの変化になって、ヴォーカルの空気感を伴った表情は個性を失ってしまうのです。

そう、ヴォーカル・サウンドの表情は「指」で作るもの。

そういうことを考えて、我が自宅スタジオでは、もう一度フィジカル・フェーダーを導入し、その持ち味を活かすことにしました。