2014/09/16

カセットMTR最期の1台―YAMAHA CMX100

異常に元気なYAMAHA CMX100
私にとっての、カセットMTR所有の歴史、その最期を飾るのがYAMAHA CMX100。

カセットテープ式4トラック・マルチトラック・レコーダー。4イン、ステレオアウト、テープアウト(1~4)、AUXセンド&リターン、PHONESという入出力スペック。
テープスピード2セレクト、dbxノイズリダクション搭載。ピッチ・コントロール有り。寸法約38cm×21cm×6.5cmとやや小ぶりで重量は2.5kg。発売年は1988年。

今月、424MKII及び464の分解作業(「424MKIIと464の分解部品移植の話」参照)で2機を失い、新たにカセットMTRを探したところ、ようやく見つけたのがCMX100です。なんとかモーター駆動やテープ走行に問題のないものに出合えて、ホッとしています。

入手したCMX100は随分と古い機種でありながら、外観の傷はほとんどなく、各ツマミやフェーダー、レコーダー部の主なボタンも正常に動作し、走行に関してはかなり元気です。不具合は今のところ見当たりません。

しかし、いかんせん先のTASCAM製品と比べると、あらゆる面で性能が劣る。80年代後半の製品ということで致し方ないのですが、まず何より、PHONESのアンプ部のS/Nが悪すぎ。
これでモニターしながら、レコーディングやオーバーダビングをしても、ノイズや歪みや音質を測ることができないほど、S/Nが酷い。とりあえず録れたかどうか確認できる程度の代物です。
そしてフェーダー。目盛りを見ても、どこを基準にしてフェーダーを上げていいのか分からない。マニュアルを読むと、“7”が適正値らしいので、“7”まで上げるようです。

YAMAHA独特だったミキサー部の外観
メーター部も慣れるまで見づらく、そもそもEQがないという製品。当時としてもこれ1台だけでは、デモテープを作るためのデモ(これをデモデモテープと呼びたい!)程度のことしかできなかったでしょう。

ホームページのコラム「さよならカセットMTR」で書いた通り、このCMX100が動かなくなれば、もうカセットMTRから完全撤退とします。現役の実務機としては、CMX100の性能上、もしかするとアーカイブのカセットテープを再生して確認する程度のことしかできないかも知れませんが、それでいいのです。

しかし、敢えて面白いことに使ってみる価値はありそう。作品づくりに加担する形で。これまでのカセットMTRと比較して、性能では断然劣ってしまうCMX100であるけれども、故に面白いことができるのではないかと。そういう使い道なら、まだまだ可能性は十分にあると思うのです。

2014/09/04

D-110音源のストック

オーディオ・インターフェースをMOTU 828xに替えてレコーディングなどをしているうちに、やはりこの周波数レンジの、余裕のある聴こえ方について、しばし思索に耽ることがあります。

828xにおける量子化された音のやりとりを通じて、聴感上、周波数レンジのゆったりとした感じがあること――例えて言えば、ワープロで文書を作成する際、紙1枚のスペースに対して、桁と行を調整しますね。これらが非常に狭いと、文字が重なる部分ができ、その部分が見た目濃く感じるので、全体としては狭い範囲に文字が並んでいるのですが、色が濃い部分が多くなります。

逆に、桁と行を思いきり広くすると、今度は、字と字の間隔が広まって、全体としては広い範囲に文字が並び、見た目の色も、比較して薄い感じになります。

後者が828xのレンジ感です。隣同士の音の間隔が広く感じる…。一つ一つの音の倍音構成がよく分かる、といった感じでしょうか。とは言え、考えてみればこれはPro Toolsとの組み合わせの兼ね合いもあるので、828xだけの問題ではなく、すべてのチューニングの問題なのかも知れません。

ともかく、今、私が抱える自宅スタジオの現場では、そういう音が録られ、それが作品になっている、ということを踏まえて、さて本題です。

桁と行が以前よりも広まった紙1枚のスペースに対して、レンジ感の狭い音源を扱ったらどうなるか。

奇跡的に現存して稼働するRoland D-110
以前入手したRoland SOUND Canvas SC-88Pro(1996年製)よりも古い音源モジュール、Roland D-110(1988年製)を扱ってみよう、という気になりました。
D-110は歴史的に見ても面白い、PCM+デジタル減算方式といったRoland独自のLA音源(線型演算音源)です。

当時のシンセサイザーの、様々な演算方式に関わる歴史についてはここでは書きませんが、D-110はパリッとした音、サクサクとした音がたまらなく、私の好きな音です。
Rolandの音源は結局、アンプ部のトランスとそれに関わる回路が良質なのか、“当時としては”非常にレンジ感がゆったりとしています。音を出力するアンプ部のクオリティ、それを繋ぐケーブルのクオリティ、受け取る側のアンプのクオリティ、といったことがレンジ感に左右します。
このD-110を828xに突っ込んだら、きっといい感じになると予想しました。

2014/09/03

424MKIIと464の分解部品移植の話

再生ピッチが不安定になったTASCAM PORTA STUDIO 424MKII
アナログMTRの話です。
先々月のことですが、所有していたTASCAM PORTA STUDIO 424MKIIの再生ピッチがいよいよ怪しくなりました。そこで、先月になって代替機を探したところ、TASCAM PORTA STUDIO 464の美品を入手することができました。

ところが、手元に届いて実際に動作チェックをしてみると、「再生ができない」という状態。見た目とは裏腹に、なんてことはない“ジャンク品”であったことが判明しました。

ここで私は考えました。
大概、その原因の多くはレコーダー部の劣化した部品のせいなので、424MKIIの部品を464に移植しようと企て、思い切ってそれぞれを分解することにしたのです。

さて、分解してみると、464の再生不可の原因は、やはりレコーダー部のキャプスタンの、モーターを伝導するゴムベルトが、完全にちぎれて熔解していたせいでした。しかもモーターに溶けたゴムが付着していて、硬い粘土状になっていました。

私はこの付着物をできるだけ除去し、なんとかベルトを掛けて走行できる状態にしました。
そして、424MKIIのゴムベルトをそこに引っ掛け、分解したレコーダー部を元に戻そうとした…。しかし。

それは無理でした。424MKIIのゴムベルトの寸法と、464のモーターの箇所の寸法とが合わず、この移植手術は大失敗に終わったのです。

一方、こちらは見た目だけ素晴らしいPORTA STUDIO 464
ミキサー&多重録音としての機材性能を比較すると、464の方が優れているわけですが、機械的にも、中を分解したら464が優れていることを発見しました。
464のレコーダー部のモーターは3つ装備されていて、どれも大きい。424MKIIの方は小型のモーターが2つ。したがって、ゴムベルトも2箇所必要で、テープレコーダーの駆動に関しては、464の方が機械的にシンプルなのです。

しかし、両機共々、その他のユニットに関しても電子部品は非常に多く、繊細かつ精密。非常に細かな形の違う部品とケーブルが複雑にひしめき合っていて、これを目撃すると、ある種感動します。古き良き日本の精密機械の素晴らしさに。すごい技術なわけです。

さて、これまで何台も、カセットテープ式の4トラック・アナログMTRを入手しては壊れ、入手しては壊れと、取っ替え引っ替えしてきた私ですが、そろそろアナログMTR歴も終焉にしようかと。実は数年前から同じようなことを考えていながら、ついつい別のMTRを入手したりして継続してきたわけです。

あと1台だけ。
あと1台だけ、基本的な動作が可能な状態の、MTRを入手して、それをある程度使い込んで、寿命が尽きたら、それでおしまいにしようかと。そんなことを考えています。

2014/08/19

「はにかむバルテュス」の打ち込みとレコーディングについて

アコースティック・ピアノのピアノロール画面(Cubase)
120秒オリジナル・ソング「はにかむバルテュス」の打ち込みとレコーディングについて、ここでは解説します。

この曲のプログラミングをSteinberg Cubase Artist 7で開始したのは、今年の春頃で、その時点でほぼすべてプログラミングは完了していました。
“名無しの権兵衛”という言い方ももはや古い言い方になりますが、曲名は決まっておらず、特定のコードネームのままでした。

それからしばらくして、実験コーナー「宅録しませう」の課題曲にしようと決め、曲名を「はにかむバルテュス」と決めた時から、バルテュス少年が踊る印象が浮かび、あとはホームページにあるテクストの通りです。ただし、最初のプログラミングで、アコースティック・ピアノの分散和音を弾いている時点では、こんなリード・ヴォーカルになるとは、まったく考えもしていなかったことなのです。

C414マイクで音を拾うシミュレート
私はピアニストでもギタリストでもないので、1曲丸ごと弾くことができません。部分部分を弾き、Cubaseで修正を施しながら、それぞれのパートの演奏を縫い合わせるようにして音データを蓄積していきます。昔は、まさに1音ずつ“打ち込んで”いましたが、最近はあまりそれをしなくなりました。

ところで、そのアコースティック・ピアノ音源ですが、私のお気に入りのモデリング音源ソフトウェア、MODARTT Pianoteq 5 PROの「K2」ピアノを使用しています。音色の調整としては、マイクロフォンのシミュレート機能でAKG C414に切り替え、ラウドなドラムに対して相対的にやや軽めの音色となるようにしています。こうしたレコーディング時の音色の調整は、後々のミキシングの効率を上げることになります。本物のピアノにマイクロフォンをセッティングする作業は、かなり時間のかかる神経質になるものなので、こうしたモデリング音源のソフトウェアは非常にありがたい存在です。

BATTERY 4はエディットしやすい
一方のドラム音源は、Native Instrument BATTERY 4のノイジーなドラムセットを使いました。このソフトウェアはエディットが非常に優れていて、わざわざパラでレコーディングする必要がないほど、複雑な処理が可能です。今回はセットを2ch録りする段階で、ソフトウェア内のサチュレーションとコンプを通し、低域の倍音を増やしつつ、適度にコンプレッションされた太いサウンドにしています。

ヴォーカルで使用したマイクロフォンは、チューブ式のLAUTEN AUDIO LT-321 Horizonです。マイクプリとマイクロフォンのチューブが温まると、とてもキャラクターの強いふくよかな、70年代的なサウンドになります。力強いヴォーカルが必要な時はこのマイクロフォンを選びます。特にこれを選んだ場合のEQ処理は、ローカット以外でほとんどいじる部分がなく、今回の曲でも高域をわずかにカットする程度でした。

ということで、ラウドなサウンドのオリジナル・ソング「はにかむバルテュス」を存分に耳で味わって下さい。

2014/07/22

「野ばら」の制作〈2〉

TASCAM PORTA STUDIO 424MKIIで再生されたインストの音源テープは、dbxノイズリダクションをON、テープスピード9.5cm/secという方式で録られていたものです。
これは通常のカセットテープ走行の倍速であり、dbxの強力なリダクション効果でヒスノイズはかなり軽減されています。

Pro Toolsに取り込まれた際、ここがポイントとなっていた、オーディオ・インターフェースMOTU 828xを通ったサウンド。
取り込まれたインストのパートを聴いて正直、YAMAHA QY-70の音源とカセットテープに録られた音…すごくいいなあと思いました。
特にハープシコードとオルガンがクリアで、1997年当時はこんな立体的なサウンドにはなっていなかったはずです。もしこれらのパートを個別に取り込んで処理をしていたら、もっと輪郭がはっきりとしていたでしょう。

その証拠に、当時テープに録られた段階での各パートの配置が、やや右側に偏ってしまっていて、左側に配置されたオルガンが独りで頑張っている感じになっています。つまりバランスがやや悪いのです。当時のモニタリングでは、ハープシコードやフレンチ・ホルンがもう少しソリッドで奥まっていて、オルガンの方が明瞭だったのかも知れません。レベル管理するメーター部も拙かったせいもあるでしょう。
MOTU 828xのデジタル・サウンドが、そうしたディテールまで浮き彫りにし、微妙なバランスの悪さまでも顕著にしてくれています。

さて、新しく吹き込んだヴォーカルは、audio-technica AT4047/SVのコンデンサー型マイクロフォンを使用しました。中高域が柔らかく前に出るマイクロフォンです。録りの際はDSPエフェクト(CueMix FX)のLeveler(LA-2Aのモデリング・コンプ)をインサートして掛け録りしましたが、なめらかなサウンドでヴォーカルにマッチします。828xのプリアンプが非常に優れていることが分かります。

リバーブ・プラグインWaves IR-L
プラグイン・リバーブはWaves IR-Lのプレートを使用。インスト及びヴォーカルにそれぞれブレンドしています。

828xのサウンドは、AVID MBOX PROと比較すると、f特性のレンジがゆったりとしていて余裕があり、どの帯域においても、カーブきつめのブーストを施しても、デジタル臭くならない気がします。コンプレッサー処理も同様の傾向で、無理に持ち上がった感じにならないのです。ジッターの精度の兼ね合いでしょう。
敢えて言えば828xは、ダイナミックレンジのマージンがぎりぎりになる段階でも、破綻しないサウンド。そう考えると、AVID MBOX PROの方は、硬派なエレクトロ系のサウンドに合うのかも知れません。
〈了〉

2014/07/19

「野ばら」の制作〈1〉

カヴァー曲、シューベルトの「野ばら」を公開しています。

ホームページのテクストに記した経緯の通り、個人的にこの曲をやり直し(リレコ)しなければ、という思いと、新しく切り替えたMOTU 828xの真価を試す必然が重なって、今回この曲のレコーディングに挑みました。

レコーディングの話の前に、この曲のインスト音源であるYAMAHA QY-70について触れておきたいと思います。

QY-70は私が1990年代後半、QY-700を使う前に所有していたモバイルタイプの音源内蔵シーケンサーです。音源は、20のドラムセットと519のオーソドックスな楽器で、YAMAHAのAWM2という方式です。音源の数では、QY-700より若干上回っています。
一般的な楽器音源を網羅、そしてシーケンス機能(トラック数はパターントラックも含めて24)が兼ね備えられたモバイルタイプ、という非常に便利な仕様になっていて、MTRにつなげればすぐにインストのトラックが出来てしまう合理性に優れていました。

1997年、「野ばら」のインストのパートをこのQY-70音源によって制作しました。全7トラック。ピアノ、オルガン、オカリナ、ハープシコード(チェンバロ)、シンセ・パッド、フレンチ・ホルン、シンセ・リード。

制作時に使用した楽譜は、百科事典『原色学習図解百科』(1968年学研)の第9巻[楽しい音楽と鑑賞](Utaro Notesブログ「『ぼだい樹』とよい声の出し方」参照)。中島良史編曲のリコーダー譜(ハ長調=C)です。
これをもとに、子供っぽい1オクターブ高いヴォーカルで歌うため、嬰ヘ長調(=F#)に移調して、ベース音となるオルガンやハープシコードなどを加えてリアレンジしました。

テープ再生に使用されたTASCAM PORTA STUDIO 424MKII
完成した7トラックのシーケンスは、カセットテープ式4トラックMTRのTASCAM MIDI STUDIO 644で2chに落として録られ、そこにヴォーカルを1トラックダビングしました。これが1997年当時、結果的に“失敗作”となってしまったテープの状態です。

今回のレコーディングでは、その時のテープをTASCAM PORTA STUDIO 424MKIIで再生(インストのみでヴォーカルは使わず)し、Pro Toolsにデジタル・レコーディングしたわけですが、老朽化している424MKIIの駆動部のピッチが定まっておらず、これを元通りのピッチにチューニングした上で、Pro Toolsに移しました。もはや今、なんの問題もなく正常に動いてくれるMTRを探し出すのは困難なのです。

ともかく奇跡的に、1997年録音のテープを再生することができ、デジタル・レコーディング(32bit浮動小数点/96kHz)でPro Toolsに収まることができました。

2014/07/13

河辺浩市先生のこと

河辺先生の授業で習ったコード進行の基本
1992年、私の母校の千代田工科芸術専門学校・音響芸術科では、自主制作CD(Utaro Notesブログ「アルバム『collage』のこと」参照)のレコーディングが校内のスタジオでひっきりなしに行われていました。これは私にとって非常に懐かしい思い出ですが、この時のCDを監修していただいたのが、トロンボーン奏者の河辺浩市先生。母校では音楽通論の授業で大変お世話になりました。

その自主制作CDのライナーノーツには、いソノてルヲ先生や斎藤宏嗣先生の解説も付き、どれもこれも懐かしいのですが、これらの資料は、今の私の音楽制作をする上で、欠かせない基礎の部分であり、事ある毎に読み直したり、聴き直すことがしばしばです。

河辺浩市先生は1949年に東京音楽学校を卒業。唱歌「スキーの歌」の作曲で知られる、橋本國彦氏の門下だそうです。河辺先生と言えば、石原裕次郎の「嵐を呼ぶ男」の編曲者であり、同名映画(1957年)にも出演(?)しています。

音楽通論の授業で使用した五線譜のノートは、すべて保管してあります。
もう20年以上も前なので、記憶がうっすらとしてきていますが、あまり憶えていない…カデンツのコード書き、なんていうのもやりました。ページを跨いで延々にコードを書いていくのです。

先の自主制作CDでのミキシング現場で、一つはっきりと憶えている思い出があります。
卓の前に座ってモニターを聴く、河辺先生。メドレー用にそれぞれの曲をミックスしたルロイ・アンダーソンの曲々を、テープで編集する際の、コンマ何秒かの、微妙なカット・インを指示する河辺先生。これはもう、先生独特の音楽的感性によるもので、現在のように波形編集でやり直しの利く作業ではなく、テープを一度切ってしまったら元に戻らない緊張の作業。音楽として妥協を許さない河辺先生とそれを受けるエンジニアとの、真剣勝負。

今でもそれを思い出すと、汗が出ます。その真剣勝負のやりとりを、同じスタジオの中で傍観者として、息を殺して見つめていた私は、言葉にはできないいろいろなことを教わったような気がします。
過去のノートを見るにつけ、河辺先生のカデンツに愛情を感じるのです。そう、音楽は《愛》なのです。