2016/08/24

「肖像」―芸術家の足踏み


大正期の洋画家・中村彝(つね)をモチーフにして、このピアノ曲をCubaseでプログラミングしたのは昨年の1月のことで、ほとんど直後に東京の下落合の「新宿区立中村彝アトリエ記念館」を訪れています。アトリエに辿り着くまでの道程で、このピアノの音が頭の中でリピートされていたことは言うまでもありません。もしその時何ら響くものがなかったならば、私はこのピアノ曲を棄てていたでしょう。

Sonnox OXFORD REVERB
MODARTT Pianoteq 5 PROソフトウェアを使ったこのピアノ・ソロは、今年の3月の時点で一度レコーディングされましたがそれはNGテイクと決め、今月の初めにまた録り直しています。
Pro Toolsでのミキシングでは、このパートにWaves SSL 4000Eのチャンネル・ストリップを挿し、僅かなコンプレッシングとEQを施しています。ここでのEQでは、低域と中低域を少しカットし、高域の12kHzあたりをわずかにブーストしました。
ピアノにかけるリバーブの選択は非常に悩みましたが、最終的にはSonnox OXFORD REVERBを選択し、プリセット“Concert Room”で適度な余韻を付加しました。ややリバーブの低域成分が邪魔に感じられたので、OXFORD REVERBのEQで低域を2.5dBほどカットしました。

NOMAD FACTORY MAGNETIC II
この曲はピアノ・ソロなので1パートしかありませんが、マスター・トラックにはNOMAD FACTORYのMAGNETIC II→WavesのSSL 4000Eチャンネル・ストリップというルーティングでプラグインを挿し、今プロジェクト作品の共通ルーティングとしています。この曲のピアノ・パートのように、主要なパートにはWaves SSL 4000Eチャンネル・ストリップを挿すのも、今プロジェクトにおけるサウンド・メイキングの共通した処理です。MAGNETIC IIはアナログ・テープの特性を模したプラグインであり、リミッター&EQの役割としてもたいへん重宝しています。

2016/08/04

進化と文明の水

SoundBowでのドローイング
「舞踏のための音楽プロジェクト」の大目標であったはずの、“アルバム”という括りが、この度外れてしまったことをまずお詫びいたします。
趣旨や中身はまったく変わらないのだけれど、制作期間が延び、その最終地点に到達しなければ個々の作品が発表できないことに疑問を感じるほど、むしろこのプロジェクトの深みにはまっている次第なのです。個人的にはとても面白い研究&実験プロジェクトです。“アルバム”という括りが外れた今、より多くの楽曲と向き合うことができています。

プロジェクトの大枠のテーマ、《舞台演劇、それも原始的な身体表現としてのミニマムなダンスに、いかに音楽は存在しうるか。その音楽表現からいかに身体表現は変化し拡張するのか》は変わりません。
また、《①仮想演劇=舞踏のモチーフを「人」「街」「踊り」に絞り、東京やパリ、ロンドン、モロッコの風景や物、人々、その喜怒哀楽などをモチーフにした舞踏をイメージ。②ダンス・ミュージックのようなものから幾何学的な即興音楽、シンプルなラヴ・ソングまでを盛り込んだ、文字通り舞踏のための》“作品集”になることも変わりません。

その大枠のテーマに最も近い、原始的な身体表現に通ずる、原始的な音楽とは何かを探るべく、実は昨年の11月、自己批判ショーの役者である紺野秀行さんに、ドラム&パーカッションの演奏をしていただき、それをソロで、複数のテイクにわたってデジタル・レコーディングしました。楽器はジャンベとケンケニです。
このうちの一つのテイクを、当初はアルバムのオープニングで使おうというところまでは決めていたのですが、具体的にどう処理するかまでは、決めかねていました(もちろん今年の初旬には、ある程度のアレンジはしていたのですが)。

Output Movementでリズムを生成
ところがようやく今頃になって、具体的な方向性が固まってきました。曲名は「Evolution and Civilization Water」といいます。
ホームページのコラム「SoundBowという抽象」で解説している、iOSアプリSoundBowの即興プレイがきっかけとなりました。正直私はこのアプリがとても使いづらくて、おそらくもう頻繁に使うことはないだろうと思っているのですが、なんとか我慢しながら即興を続け、いくつかのテイクを繋ぎ合わせたわけですが、それでも曲としての体裁に届いていないと不満に思いました。
そこで、そのSoundBowの繋ぎ合わせたテイクを、OutputのプラグインMovementにかけて新たなリズムを生成したところ、これが思わぬほど面白いリズムとなり、まるで太古の人類が創造した原始的なリズムのように感じたり、地球上の生物を大きく進化させる源となった水の存在の、その躍動的なウェーブのように感じられたりして、今プロジェクト作品集のオープニングを飾るに相応しいと思いました。

そう、このSoundBowによる原始的リズムから、紺野さんが演奏したリズムへと移行した時、まさに地球の歴史であるとか人類の歴史、すなわちそういう中で生まれた原初の音楽と向き合える格好の曲=「Evolution and Civilization Water」と成り得たのです。見方を変えれば、この曲はたいへんショッキングな曲となるかも知れません。どうかご期待下さい。

2016/07/21

よみがえった「明日の燈を」

「明日の燈を」Pro Tools画面
オリジナル曲「明日の燈を」の[2016 Version]が完成しましたので、この曲のミキシングについて解説したいと思います。尚これにより、古いヴァージョンの[2012 Version]は削除しました。ご了承下さい。

この[2016 Version]は、1999年当時のサウンドのニュアンスをほぼ踏襲しています。ちなみに、[2012 Version]のイントロで鳴っていたパワー感のあるシンセ・パッドはmicro KORGの音色だったのですが、ああいった派手なイントロはこの曲のイメージを損なっていた、という思いもあり、今回はできるだけ1999年のサウンドに近づける努力をしました。

ディレイはWaves Super Tap
ヴォーカル録りで使用したマイクロフォンはNeumannのTLM 49で、深めのコンプが掛かっています。ミキシングにおけるヴォーカル・パートのプラグイン処理は、まずディエッサーで歯擦音を抑え、コンプでゲインを上げ、EQで不要な低域の除去や高域の伸びを強調し、モジュレーションをかけてヴォーカルの音像が少し浮かび上がるようにしています。
さらにヴォーカル・パートにはディレイとリバーブがかかっていますが、ディレイは今回、WavesのSuper Tapを使用しました。

WavesのSuper Tapは非常に直感的なエディットができ、ディレイの音像を視覚的に操作しつつ、その左右のディレイのタイミングもリズムやメロディのノリに合わせて簡単にエディットすることができるのです。この曲においては、ヴォーカルにかかるディレイはとても重要な役割を果たしていて、これを外してしまうと、ヴォーカルのリズム感が失われてちょっと不自然になってしまうのです。

Waves Aphex Vintage Aural Exciter
それからもう一つ、ヴォーカル・パートには今回、WavesのAphex Vintage Aural Exciterをかましています。これはEQで高域の伸びを強調するのとは別物の、独特な倍音付加効果になり、一言で言えば音色が派手になります。
もともとエキサイターの効果は好きで、20代の頃やっていたミキシングでは、エキサイターもどきのEQ処理をヴォーカルに多用していました。ただしこれをかける際、やはりディエッサーでしっかり処理しておかないと、かえってヴォーカルが耳障りになってしまうので注意が必要です。

「明日の燈を」のオケは当時、YAMAHA QY-70でプログラミングしたために、パートの数がやや多く、チャカチャカとしたアレンジになっています。この曲のミキシングの難しさは、いかにオケのチャカチャカした感じをそのまま残しつつ、全体のレベルを整えることができるか、でした。
しかし逆に、過去の曲を再現することで、当時理想としていたオケの立体感の中に位置するヴォーカルとの関係、そのバランスについて、忘れていたものを思い出すきっかけとなりました。
立体的に膨らんだオケの中にヴォーカルを置くためには、ヴォーカルは深めのコンプをかける必要があること。リズムの肝となるバスドラやベースはこの音像の底部となるよう、浅めのコンプでアタックをほとんど削らないようにすること、など。

こうした立体的な音像を形成すると、リバーブもあまりかけなくていいという面があります。個人的には「明日の燈を」の制作で音楽の作り方、音の作り方の基本を学んだ印象が強いです。作るのはかなり難しい曲でしたが、それとは別に、純粋に曲の雰囲気やテーマなりを感じ取っていただければ、それで十分なのです。私自身、この曲のテーマに対する気持ちは、昔も今もまったく変わりません。是非、聴いて下さい。

2016/06/28

「rain rain rain―雨の記憶」のミキシング

air MULTI-DELAYエフェクト
「SC-88Pro ハチプロで創る。」プロジェクトで制作したオリジナル曲「rain rain rain―雨の記憶」のミキシングについて。

この曲のイントロのアコギのフレーズ、左右に飛び交うディレイ・エフェクトがかかっているのは、ハチプロ(Roland SC-88Pro)のインサーション・エフェクト“Stereo Delay”(+原音)とPro ToolsのミキシングでAUX送りした“MULTI -DELAY”エフェクトのプリセット、“Percussive Delay”との複合によるもので、これに多少のリバーブ(Lexiconのプレート)をかけてできたものです。

これを聴いて思い出したことがあります。昔、YAMAHAのシーケンサーQY-700で山下達郎さんのカヴァー曲をプログラミングした時に、アコギの16分音符が続くフレーズにところどころブラッシング・ミュート(ゴースト・ノート)をひとつひとつ打ち込むのにたいへん苦労して、デュレーションの付け方で変化を加えるのにとても時間を要したことがあります。そしてそうやって人工的にプログラミングしても結局、音楽的にリズムとうまく馴染まない、というような経験がありました。

air CHORUS
ハチプロでアコギにディレイをかけた状態で鳴らし、コード・プログレッションとシンコペーションを同時に作曲するという手法。まさに「rain rain rain―雨の記憶」の作曲はそこから始まったわけです。ブラッシング・ミュートをちまちまと時間をかけて打ち込むより、どれほど容易で音楽的か。

この曲のヴォーカルは、実は3つのトラックに分けて録られたもので、それぞれかけられたエフェクトが異なっています。“意味不明なスキャット”を歌っているヴォーカルにかかっているのは、“CHORUS”のプリセットの“Slow Stereo”で、先述した“MULTI DELAY”エフェクトのプリセット、“Percussive Delay”とLexiconのリバーブも少しかかっています。Lexiconのプレート・リバーブではプリ・ディレイ値もエディットされているため、リバーブ自体もディレイがかかっているわけです。

このように、主要なパートをディレイ尽くしすることによって、雨の連続性やリズム感を演出し、音の無限性についても感じられるかと思います。

Lexicon PCM Native Plate
しかし、この曲のミキシングで一番重要だったのは、アコギのアタックを残すことと、それぞれのパートの低域の処理。
まず曲の始め雨の実録音(SE)にはコンプレッションで上がってしまった低音が多く含まれていたのでこれをカットし、ヴォーカルその他のパートの80Hz以下についてもそれぞれ適切な量をカットしています。
ただし、バスドラの音は重たい低域感が欲しかったので、低域はいじりませんでした。ハチプロの音源は意外なほど周波数レンジが広く気持ちの良い音で、そのためクリアでありながら幾分かの柔らかさを持ち合わせています。当然、削ればシャープにもなり、非常に臨機応変に処理がしやすい音源なのです。

何度も言うように、「SC-88Pro ハチプロで創る。」プロジェクトは当初、SC-88Proを使うということの単なる実験のつもりでした。が、ハチプロの使いやすさと音の魅力の影響を受け、知らず知らず作曲に没入していって純粋な創作作業になっていってしまいました。
逆に言えば、作曲に没入できる音源というのは、とても大事なことだと思います。そういう音源と今回巡り合うことができ、なおかつ今後も継続して使っていくと思うので、よりいっそう新しい発見の機会があるかも知れません。

2016/06/19

「明日の燈を」のオケ大修正

Cubaseのテンポトラックエディターでテンポを修正
当ブログ「『明日の燈を』オケのレコーディング」でお伝えした、レコーディング済みのオケでヴォーカル録りを行おうと、先日、Pro Toolsでオケを走らせたところ、まったくヴォーカルがリズムに乗らない、間違ったテンポであることに気づき、急遽ヴォーカル録りを中止しました。
そしてそのオケの修正作業のため、再びCubaseのプロジェクト・ファイルを開き、結果的には大がかりな修正を施しました。

何故このようなことが起きたかというと、完成したオケでのヴォーカルのリハーサルを、なおざりにしてしまったからです。あまりにもこの曲と向き合う機会が多かったことがかえってわざわいして、この曲を知り尽くしていると思い込んでいたのだと思います。

そもそも当時の1999年オリジナル・ヴァージョンをプログラミングしたYAMAHA QY-70には、“グルーブテンプレート機能”というのがあって、プログラミングした曲を再生しながら、セレクトしたテンプレートでグルーヴを変えることができました。「明日の燈を」のオケはグルーブテンプレート機能で微妙なノリを作り出していた節があります。

したがって今回のリアレンジの作業では、同様のノリを再現する必要があったわけですが、ヴォーカルのリハーサルが不十分であったため、相応しくないノリの状態のオケのまま、レコーディングしてしまったのです。

救世主となったハチプロ音源
修正作業では、厳密なノリ(=groove)を再現するため、オケの肝となるパートをQY-70と限りなく近い音色、つまりスタンダードMIDIの音色に差し替えました。ハチプロ音源(SC-88Pro)を使ったのです。
QY-70とほぼ同等のQY-700の音源では、ヌケが悪くピンとこなかったのですが、ハチプロの音源を使うとこれが見事に解決できました。4パートほど、ハチプロ音源に差し替えました。

テンポは、Cubaseのテンポトラックエディターで修正し、ヴォーカルとオケが一体となるよう、部分的に1小節のみわずかに遅くしたり、2拍分だけテンポを変えたりと、普通に聴いただけでは気づかない程度に変化を付けました。テンポが遅くなるアウトロにかけての数小節に関しては、今回の修正点はなく、テンポが遅くなるタイミングはそのままの状態となりました。

次回、この修正されたMIDIファイルを使って、もう一度オケのレコーディングをおこない、ヴォーカル録りも済ませるつもりです。

2016/06/07

実験色から純粋な創作へ

「SC-88Pro ハチプロで創る。」プロジェクト。オリジナル曲「rain rain rain―雨の記憶」のレコーディングについて。

私がまだ20代だった1996年当時、Rolandから発売されたSOUND Canvas SC-88Pro(=ハチプロ)は定価89,800円と高価で、高嶺の花でした。シーケンサー主導で制作していた当時としては、外部の音源モジュールがどうしても欲しくなる衝動を抱えており、同じ頃にKORGからNS5R(64音ポリ/32パート、12MBサウンド・メモリー)が発売されましたがこれもまた69,800円と高価で手が出せず、4年後にようやくKORG NX5Rを購入することができました。が、KORG独特の音源性と当時の自身の音楽性とが噛み合わず、かなりブルーな気分になって創作意欲が減退…という経験をしました。

今更になってようやく、ハチプロの音に出会うと、当時これを最初から持っていたらと思ったりします。スタンダードなアコースティック系楽器、電子楽器、シンセの音色を含めた1117のプリセット音色と42のドラム音色の膨大な音のカタログは、作曲の段階で創造を刺戟し、さらにエフェクト処理による音像の変幻によって着想が次なる着想を生み、音楽に携わることの至福を感じたに違いありません。これは昨今の特化したソフトウェア音源をいくら組み合わしても体験できない感覚だと思います。

当初、実験をするつもりで始めた「SC-88Pro ハチプロで創る。」プロジェクトは、「rain rain rain―雨の記憶」を作り上げる過程で、少し意味合いが変わりました。もともとシーケンサー+外部音源モジュールというスタイル(というかシステム)で制作していた私にとって、ハチプロという音源モジュールはとても馴染みやすいし、作曲からアレンジしていく過程でのこのスタイルがある意味、完全無欠のように思えてくるのです。

もちろんこのプロジェクトではハチプロ以外の音源は使用しないというルールですが、私の今後のスタイルの定番は、どうやらCubase+ハチプロ(VSTプラグイン)となって、これにプラスアルファとしてその他のソフトウェア音源、あるいは外部のシンセサイザーという形になるのではないかと思います。

ヴォーカルの数テイクのオーディオ・クリップ
さて、「rain rain rain―雨の記憶」のレコーディング。打ち込みの段階からもはや実験的な気持ちから解放され、純粋に曲の創作に没頭してしまったのですが、“雨”をテーマにした曲ということで、事前にハンディ・レコーダーZOOM H2nを使って実際に屋外の雨の音を録り、それをギターのイントロの前にインサートしました。

ヴォーカル録りでは、マイクロフォンLEWITT LCT 550を使用し、薄めのコンプをかけています。最初のテイクで即興的にヴォーカルを入れ、どこでどう歌うべきかを把握した後、2テイク目から“歌詞のない”スキャットを吹き込んでいきました。

打ち込みからレコーディングまで、ハチプロをシステムに組み込んだおかげで、本当に気持ちの良い創作ができ、これが実験曲であること自体、いい意味で吹っ飛んでしまった、というわけなのです。

2016/05/25

ハチプロ・プロジェクト始動

オリジナル曲「rain rain rain―雨の記憶」打ち込み画面
「SC-88Pro ハチプロで創る。」プロジェクト。マルチ・ティンバー音源の名機Roland SOUND Canvas SC-88Proのみの音源で曲作りをするというプロジェクト。

SC-88Pro、“ハチプロ”と聞いて多くの人が思い浮かべるのがレイ・ハラカミさんではないかと思うのですが([Utaro Notes]ブログ「レイ・ハラカミと作る音楽の思考」参照)、このプロジェクトの初っぱなではまず、ハラカミさんがハチプロ音源でどうアプローチしたかを理解したいと思い、少し“それらしい”曲を打ち込んでみました。さすがにピッチ・ベンドを多用すると、もろハラカミさんの曲を真似ることになってしまうのでそれは避けることにし、ハラカミさんが一つの手法としていた、ディレイを使って浮遊感を出す――というアプローチを追体験してみることにしました。

曲名は「rain rain rain―雨の記憶」(Utaro作詞・作曲)。アコギのコード・プログレッションにハチプロのインサーション・エフェクト“Stereo Delay”がかかったイントロ。
打ち込んでからディレイをかけるのではなく、あらかじめディレイをかけておいて打ち込みました。

ハチプロ実機に使われたCANAREケーブル
ハラカミさんも「ディレイありき」だったそうです。ちなみに彼は、システム・エフェクトの“Pan Delay 1”をよく使っていたらしく、ハチプロのディレイ音に対して「ヌケがすごく良い」というようなことを言っていたようです。ハチプロのエフェクトの構造は、おおまかに2タイプあって、一つは個別のパートに挿入するインサーション・エフェクト(64種類)、もう一つがセンドの数値で送り込むことのできるシステム・エフェクト(リバーブ系8種、コーラス系8種、ディレイ系10種)があって、インサーション・エフェクトをかけつつ、システム・エフェクトにセンドすることもできます。“Pan Delay 1”はこのシステム・エフェクト内のディレイに当たります(“Pan Delay”は1~4の計4種類)。また、2バンドのイコライザーもあって、パート別にON/OFFすることができます。イコライザーのパラメーターはLowが200と400Hz、Highが3kHzと6kHzとなっています。

さて、「rain rain rain―雨の記憶」の打ち込み作業はいつもどおりCubase Pro 8で、この段階ではVSTのSOUND Canvas VAを使って計5パートを打ち込みました。SOUND Canvas VAはとても使い勝手が良く、当然ながら実機よりも素早い音色切り替えやエフェクト設定ができます。
アコギのパートに挿入した“Stereo Delay”ですが、やはりヌケが良く、気持ちいい掛かり方になります。フィードバックのモードはCrossで、左が360msecで右が500msecという数値にしました。この左右の数値によって独特のリズムが生まれ、ここから算出してテンポを確定しました。まさに「ディレイありき」のやり方です。

Pro Toolsで録られたハチプロ実機音源の各パート
Pro Toolsでのレコーディングでは、プロジェクトのルール通り、実機の音源を使いました。2年前に購入して以来、ハチプロの実機には、古い安物のケーブルをつないでいましたが、今回2本のケーブルを買い換え、CANAREのQC01をアナログ・ミキサーMackie 1604-VLZ3に送りました。ハチプロのアウトはRCAなので、ケーブルはRCA/フォン仕様となります。
Pro Toolsへの入力時にはコンプを薄めにかけ録りしましたが、各パートのSOUND Canvas VA上の設定を実機で完全に再現した上で録っているので、アコギのディレイの掛かり方などもほぼ同等だと思われます。VSTの音源ではやや透明感がありましたが、実機からアナログ・ミキサーへ、そしてデジタルI/Oでコンプをかけ録りした段階での質感は、ヌケの良さはそのままで、やはり少し芯が太くなった音となり、これもほぼ予想通りでした。

このように、プロジェクトの最初の実験段階を終えたのですが、いわゆるVSTでの打ち込み作業、それからレコーディングでの実機を使ったアウトプットの録り、という作業のいずれもうまくいきました。この段階までに感じた、個人的な感想をいくつか述べたいと思っていましたが、それは次回に譲ることにします。