2014/07/22

「野ばら」の制作〈2〉

TASCAM PORTA STUDIO 424MKIIで再生されたインストの音源テープは、DBXノイズリダクションをON、テープスピード9.5cm/secという方式で録られていたものです。
これは通常のカセットテープ走行の倍速であり、DBXの強力なリダクション効果でヒスノイズはかなり軽減されています。

Pro Toolsに取り込まれた際、ここがポイントとなっていた、オーディオ・インターフェースMOTU 828xを通ったサウンド。
取り込まれたインストのパートを聴いて正直、YAMAHA QY-70の音源とカセットテープに録られた音…すごくいいなあと思いました。
特にハープシコードとオルガンがクリアで、1997年当時はこんな立体的なサウンドにはなっていなかったはずです。もしこれらのパートを個別に取り込んで処理をしていたら、もっと輪郭がはっきりとしていたでしょう。

その証拠に、当時テープに録られた段階での各パートの配置が、やや右側に偏ってしまっていて、左側に配置されたオルガンが独りで頑張っている感じになっています。つまりバランスがやや悪いのです。当時のモニタリングでは、ハープシコードやフレンチ・ホルンがもう少しソリッドで奥まっていて、オルガンの方が明瞭だったのかも知れません。レベル管理するメーター部も拙かったせいもあるでしょう。
MOTU 828xのデジタル・サウンドが、そうしたディテールまで浮き彫りにし、微妙なバランスの悪さまでも顕著にしてくれています。

さて、新しく吹き込んだヴォーカルは、audio-technica AT4047/SVのコンデンサー型マイクロフォンを使用しました。中高域が柔らかく前に出るマイクロフォンです。録りの際はDSPエフェクト(CueMix FX)のLeveler(LA-2Aのモデリング・コンプ)をインサートして掛け録りしましたが、なめらかなサウンドでヴォーカルにマッチします。828xのプリアンプが非常に優れていることが分かります。

リバーブ・プラグインWaves IR-L
プラグイン・リバーブはWaves IR-Lのプレートを使用。インスト及びヴォーカルにそれぞれブレンドしています。

828xのサウンドは、AVID MBOX PROと比較すると、f特性のレンジがゆったりとしていて余裕があり、どの帯域においても、カーブきつめのブーストを施しても、デジタル臭くならない気がします。コンプレッサー処理も同様の傾向で、無理に持ち上がった感じにならないのです。ジッターの精度の兼ね合いでしょう。
敢えて言えば828xは、ダイナミックレンジのマージンがぎりぎりになる段階でも、破綻しないサウンド。そう考えると、AVID MBOX PROの方は、硬派なエレクトロ系のサウンドに合うのかも知れません。
〈了〉

2014/07/19

「野ばら」の制作〈1〉

カヴァー曲、シューベルトの「野ばら」を公開しています。

ホームページのテクストに記した経緯の通り、個人的にこの曲をやり直し(リレコ)しなければ、という思いと、新しく切り替えたMOTU 828xの真価を試す必然が重なって、今回この曲のレコーディングに挑みました。

レコーディングの話の前に、この曲のインスト音源であるYAMAHA QY-70について触れておきたいと思います。

QY-70は私が1990年代後半、QY-700を使う前に所有していたモバイルタイプの音源内蔵シーケンサーです。音源は、20のドラムセットと519のオーソドックスな楽器で、YAMAHAのAWM2という方式です。音源の数では、QY-700より若干上回っています。
一般的な楽器音源を網羅、そしてシーケンス機能(トラック数はパターントラックも含めて24)が兼ね備えられたモバイルタイプ、という非常に便利な仕様になっていて、MTRにつなげればすぐにインストのトラックが出来てしまう合理性に優れていました。

1997年、「野ばら」のインストのパートをこのQY-70音源によって制作しました。全7トラック。ピアノ、オルガン、オカリナ、ハープシコード(チェンバロ)、シンセ・パッド、フレンチ・ホルン、シンセ・リード。

制作時に使用した楽譜は、百科事典『原色学習図解百科』(1968年学研)の第9巻[楽しい音楽と鑑賞](Utaro Notesブログ「『ぼだい樹』とよい声の出し方」参照)。中島良史編曲のリコーダー譜(ハ長調=C)です。
これをもとに、子供っぽい1オクターブ高いヴォーカルで歌うため、嬰ヘ長調(=F#)に移調して、ベース音となるオルガンやハープシコードなどを加えてリアレンジしました。

テープ再生に使用されたTASCAM PORTA STUDIO 424MKII
完成した7トラックのシーケンスは、カセットテープ式4トラックMTRのTASCAM MIDI STUDIO 644で2chに落として録られ、そこにヴォーカルを1トラックダビングしました。これが1997年当時、結果的に“失敗作”となってしまったテープの状態です。

今回のレコーディングでは、その時のテープをTASCAM PORTA STUDIO 424MKIIで再生(インストのみでヴォーカルは使わず)し、Pro Toolsにデジタル・レコーディングしたわけですが、老朽化している424MKIIの駆動部のピッチが定まっておらず、これを元通りのピッチにチューニングした上で、Pro Toolsに移しました。もはや今、なんの問題もなく正常に動いてくれるMTRを探し出すのは困難なのです。

ともかく奇跡的に、1997年録音のテープを再生することができ、デジタル・レコーディング(32bit浮動小数点/96kHz)でPro Toolsに収まることができました。

2014/07/13

河辺浩市先生のこと

河辺先生の授業で習ったコード進行の基本
1992年、私の母校の千代田工科芸術専門学校・音響芸術科では、自主制作CD(Utaro Notesブログ「アルバム『collage』のこと」参照)のレコーディングが校内のスタジオでひっきりなしに行われていました。これは私にとって非常に懐かしい思い出ですが、この時のCDを監修していただいたのが、トロンボーン奏者の河辺浩市先生。母校では音楽通論の授業で大変お世話になりました。

その自主制作CDのライナーノーツには、いソノてルヲ先生や斎藤宏嗣先生の解説も付き、どれもこれも懐かしいのですが、これらの資料は、今の私の音楽制作をする上で、欠かせない基礎の部分であり、事ある毎に読み直したり、聴き直すことがしばしばです。

河辺浩市先生は1949年に東京音楽学校を卒業。唱歌「スキーの歌」の作曲で知られる、橋本國彦氏の門下だそうです。河辺先生と言えば、石原裕次郎の「嵐を呼ぶ男」の編曲者であり、同名映画(1957年)にも出演(?)しています。

音楽通論の授業で使用した五線譜のノートは、すべて保管してあります。
もう20年以上も前なので、記憶がうっすらとしてきていますが、あまり憶えていない…カデンツのコード書き、なんていうのもやりました。ページを跨いで延々にコードを書いていくのです。

先の自主制作CDでのミキシング現場で、一つはっきりと憶えている思い出があります。
卓の前に座ってモニターを聴く、河辺先生。メドレー用にそれぞれの曲をミックスしたルロイ・アンダーソンの曲々を、テープで編集する際の、コンマ何秒かの、微妙なカット・インを指示する河辺先生。これはもう、先生独特の音楽的感性によるもので、現在のように波形編集でやり直しの利く作業ではなく、テープを一度切ってしまったら元に戻らない緊張の作業。音楽として妥協を許さない河辺先生とそれを受けるエンジニアとの、真剣勝負。

今でもそれを思い出すと、汗が出ます。その真剣勝負のやりとりを、同じスタジオの中で傍観者として、息を殺して見つめていた私は、言葉にはできないいろいろなことを教わったような気がします。
過去のノートを見るにつけ、河辺先生のカデンツに愛情を感じるのです。そう、音楽は《愛》なのです。

2014/07/03

懐かしいバッキング・アイディア?

『サウンド&レコーディングマガジン』1991年12月号より
個人的には馴染みがありすぎる、そして随分使い込んできたYAMAHAのオールインワン・シーケンサーQY-700の活躍も、今となっては完全休眠状態となり、たまに内蔵データをいじる以外は触れることもなくなりましたが、逆に言えば2011年までは(個人的に)現役バリバリであった、というのも不思議というか驚きです。
そもそも1999年頃、私にとって音楽のアレンジを学ぶための唯一の音源&鍵盤がQY-700(それ以前はQY-70)であり、振り返って思い起こすことも多々あります。

ちょうどその頃、ストックしていた雑誌『SOUND & RECORDING MAGAZINE』(1991年12月号・リットーミュージック)を貪るように読んで、この号の“シーケンサー・レコーディング・セミナー第34回”、篠田元一著「バッキング・アイディア⑤」でパッド系音源のアレンジについていろいろ試行錯誤したものです。

パッド系のアレンジのための解説
あの時代のハードウェアのシーケンサーというのは、ピアノロールのような視覚的に便利なものがなかったため、コード・プログレッションの構造を、ドレミのアルファベット(ノート)と数値でリスト化したエディット画面なるもので把握するしかなく、非常に不便を強いられていました。
「バッキング・アイデア⑤」のページにある、“オープン・ヴォイシング”となっている白玉の、Cメジャー・セブン→Fメジャー7…と続く美しいプログレッションも、そのエディット画面ではただアルファベットが縦に4つ並ぶだけで、単純に見ただけでは和声になっているのか単音の並びなのかさえも把握しづらい、本当に不便なシーケンサーでした。

我が愛しのYAMAHA QY-700
篠田さんはこのページで、異なる音色のパッドで最低音、内声音、最高音を別々にして鳴らすと厚みが出て効果的、と述べていますが、私はこれを皮肉にとらえて、あの見づらいエディット画面を少しでも見やすくするため、わざと異なるパートで和声を鳴らす、ということを考えたりしたわけです。“ドロップ2”のような最低音をずらしただけ(Em7にテンションの9th→A7にテンションの9th,13th)の、ミニ鍵盤で易しくできるコード・プログレッションも、エディット画面ではそれがそうと分かるのにかなり時間がかかったかも知れません。

要するに今、昔自分が行ったアレンジを、少し顧みてみようと思う時、QY-700のエディット画面を見ても、即座にそれが何であるのか把握しづらいので、結局はデータをCubaseにインポートしてピアノロールで見る、という面倒なことをしなければならない、という問題なのです。これは半分笑い話ですが…。

さすがにQY-700をシーケンサーとして復活させる気は毛頭ないけれども、音源のネタとしては、何か復活させてみようかとは思っています。

2014/06/27

MOTU 828x導入計画〈4〉

828xの設置とワイヤリング
初期不良で修理に出していた「MOTU 828x」がなんの前触れもなく戻ってきたので、速攻でオーディオ・インターフェース設置の作業を開始しました。
モニター・スピーカーやサブ・ミキサー、外部機器に繋ぐデジタル・アウト、さらには外部音源モジュールへのMIDIアウト、外部エフェクターからのインプット系統など、プラン通りのワイヤリングを経て、まずは基本的なマイクロフォンの入力テスト。

メーターが触れて音もしっかり出ている。DSPによるエフェクト処理も可能。これが2週間前までまったく動作しなかった初期不良箇所だったのですが、直って正常の動作をしています。メインボードを交換したようなので、初期不良箇所はまったく改善されていると思われます。

ここからは、通常の新規オーディオ・インターフェースの設定項目になっていきますが、ドライバのインストールは既に済んでいるので、個別のソフトウェアの初期設定を行い、音出しのチェック。
ここで注意しなければならなかったのは、ハードウェアのサンプル・レート及びバッファ値について。Pro Toolsでは、そのサンプル・レートによって変化するバッファ値を最小にしても問題ありませんでしたが、その他のソフトウェアではそれに見合ったバッファ値に上げなければ音が出ませんでした。音が出ない際のエラーメッセージがないため、バッファ値設定に問題があることにしばらく気がつきませんでしたが、これに注意しながらソフトウェアを立ち上げれば、問題なくドライバが機能すると思います。

さて、先述したマイクロフォンの入力テストでは、DSP(CueMix FX)によるコンプやEQを簡単に試してみましたが、なかなか効きが良いようです。レイテンシーの遅れを気にせずに使用できるので、使い込みたい機能です。88.2kHz以上の場合はモニター・リバーブが不可になるのが残念ですが、コンプやEQの方は問題なく使用でき、いくつかの視覚モニターもレコーディングの際には重宝するでしょう。

実践的なテスト作業はここからになりますが、とりあえずMOTU 828x導入計画はこれで完了しました。

2014/06/12

MOTU 828x導入計画〈3〉

予定稿としては今頃、自宅スタジオに新規導入した、このオーディオ・インターフェース「MOTU 828x」のサウンド・チェックを行うつもりでした。

が、事はそううまくはいかない…。
結論を先に言えば、828xの初期不良らしく、「マイクロフォンを挿しても音が出ない」「メーターが触れない」のです。
最初はドライバのインストールの問題、PCとハードウェアの接続トラブルかなと思ったのですが、何度インストールを試しても同じ結果。そもそも、そういったドライバなどとは関係なく、単純にマイク入力された音がハードウェア内部でまったく反応していないのはおかしい。初期不良の疑いがあります。

ということで、一旦は作業中断。
製品を返送し、正常な状態の製品が戻ってきてから、各種設定やサウンド・チェック等を行います。

2014/06/07

東京マタニティ―そのラテンのざわめき

2014年、「東京マタニティ Project」始動。

私が長年歌いたかったジャンルとして、“ムード歌謡”というのがあります。特にラテンのリズムの、その独特な調子の中で哀しげなメロディを乗せ、まるで昭和の東京を思わせるようなムード。そう、まさにそういうムード歌謡をオリジナル曲で歌ってみたかったのです。

曲のタイトルは、ほぼ決定している「東京マタニティ」。とある妊婦が、東京の街をさまよう、という歌の内容を目指して。

昭和時代のムード歌謡を聴いたりすると、当然ながらほとんどが“モノーラル”だったりするのですが、モノラルの音像で音楽的に何かを表現するというのは、今となってはけっこう難しいものなのです。伴奏が極端にアンビエントに晒され、後ろに引っ込みつつ、ドライなヴォーカルが突出してきこえる…というような。

かといってそういうモノラル音像でこのオリジナル曲を作ろう、とはまだ何も決まっておらず、場合によってはステレオになるかも知れません。

BFD 3の親しみやすいGUI
ともかく、現時点ではまだ中身について漠然としています。
ただ、こうしようという一つのアイデアというか道筋については、ドラム音源にFXpansionの「BFD 3」を使おうか、と思っています。
BFD 3は非常に生っぽいドラムを再現し、そのドラムセットのチューニングのこまかさに関しては実に素晴らしいのです。単に音源を提供しているだけでなく、ドラムセットをサブ・ミキサーでとりまとめ、各種エフェクターで整えてからアウトすることが可能。私は普段、ドラム・セクションはパラってPro Toolsでレコーディングしているのですが、そういった部分をBFD 3に任せてしまってもいいかな、という気もします。

「東京マタニティ」という、ある意味特殊な曲を構築する場合、どの角度から考えてもBFD3は何らかの形で必要になってくるのではないか、と。

私にとっても非常に楽しみなProjectなのですが、完成は、年内後半になってしまうかな、と思います。プロジェクトの展開と進捗は、随時ホームページや当ブログでご報告いたします。では、乞うご期待!