侘びの世界へ―Flower's Topology

Abbey Roadプラグインについて

EMI TG12412プラグイン
1990年代まで、レコーディング・スタジオの現場では、NEVEやSSLなどのアナログ・コンソールとSONY PCM-3348のデジタル・マルチトラック・レコーダーをユニットにしたレコーディング・システムが主流でした。

時代とともに主流が置き換わり、DAW――例えばPro Toolsのみで合理的にそれを解決しようとする場合、どうしてもサウンドの味付けが淡泊になりがちです。

私が数年前にPro Toolsシステムを導入した直後から、この問題を懸念して、Abbey Roadのプラグインをインストールして使っていました。

最初に導入したのが、EQとフィルター処理のための「EMI TG12412」(EQ)と「EMI TG12414」(フィルター)です。どちらもモノタイプですが、アビイロード・スタジオでかつてマスタリング・コンソールに組み込まれていたモジュールを再現しています。ちなみに私はこれをヴォーカルのEQ処理に使っています。サウンドを整えるのにツボを押さえた処理ができます。

REDD.17プラグイン
これに加えて、昨年発売されたばかりのプラグイン「REDD Consoles」が、私が行うミキシング作業で音作りの重要な役割を果たしてくれています。もはやこれらはサウンド・メイキングで不可欠な要素となっています。

そもそも高校生の頃、レコーディングの勉強として貪り読んだのが、マーク・ルウィソーン著『ビートルズ/レコーディング・セッション』(シンコー・ミュージック)。これはビートルズがスタジオで取り組んだレコーディング日誌のようなもので、彼らの私的なやりとりのみならず、豊富なデータによってそのレコーディングの一部始終が丹念に積み上げられている本です。

その本の中にあった、エンジニアのケン・タウンゼンドの言葉が私にとって刺激的でした。

《アビィ・ロードのミキシング・コンソールは、独自にデザインしたものだった。第2スタジオにはREDD 37が備えつけてあったよ。インプットが10個、アウトプットが2個で、大きなノブやレバーで操作するんだ。色は軍艦みたいなグレー。テープ・マシンはBTR(ブリティッシュ・テープ・レコーダー)のモデルで、頑丈ないい機械だった。もともとグリーンだったのを、コンソールの色に合わせてグレーに塗り替えたんだ》

1962年9月4日にレコーディングされた「Love Me Do」は、初期にプレスされたParlophoneのEP盤(リンゴ・スターのドラム・ヴァージョン!)となり、9月11日にレコーディングされた同曲のリテイクが、EPのセカンド・プレス盤(アンディ・ホワイトのドラム・ヴァージョン)及びアルバム収録テイクとなったものですが、ケン・タウンゼンドの証言によって、どちらの「Love Me Do」も、REDD 37コンソールで録られたものであることが分かります。

私がリファレンスCDとしているビートルズ・アルバム
こうしてビートルズのレコーディングとミキシングで得られたような当時のアビイロード・スタジオのサウンドを、「REDD Consoles」を使って試すことができ、それをひな形にして擬似コンソール化することができるようになったのです。

ところで、これらのプラグインを使った時の音と使わなかった時の音はどう違うか――。もちろん音としてまったく違うのは明らかですが、ジョークをまじえてたとえを言うなれば…。

アイリッシュ・ウイスキーをオンザロックで飲むとする時、冷凍庫の製氷皿でできた氷(水道の水でできた氷)で飲むのと、アラスカ氷河なんかの砕氷で飲むのとでは、見た目も味も違うでしょう。もちろん気分も違ってきます。

ポール・マッカートニーが言っていました。レコードは音楽の通貨であると。酒を飲む醍醐味があるのと同じように、音楽を耳で聴く醍醐味、というものがあるのです。

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