侘びの世界へ―Flower's Topology

「知らん」のミキシング―熟成されたサウンドとして

【「知らん」のミキシング画面】
プチ・ソング「知らん」
ヴォーカルのレコーディングを終えた段階で、ミキシングではどのようなアプローチをすればいいのか、しばし検討の時間を費やしました。その検討とは、当然ながら、全体のミックスの印象がどうなればよいのかを決めることであり、その具体的な方策を詰めることにありました。

実際のミキシングの作業に入り、まずしなければならなかったことは、ヴォーカルの処理でした。空のトラックを作り、そこに複数のテイクが残されたトラックをバス送りします。その際、Pro Toolsのオートメーション機能を使い、フレーズごとにOKテイクとNGテイクの音のON/OFFを記録します。

【ヴォーカルの歪んだサウンドはBlack Op Distortionで】
事前の具体的な方策では、やはりヴォーカルは少しノイジーな、エキセントリックなサウンドにすることを決めていたので、このヴォーカルのトラックにはいくつかのそうしたプラグインを挿しています。その一つ、「Black Op Distortion」は文字通りディストーションのエフェクトで、これはPro Toolsのプラグイン・バンドルになります。
このディストーションを掛けるとかなりラウドになるので、プラグインのアウトプット・レベルをそれ相応に抑えました。旨みのあるディストーションのバランスというのはなかなか難しく、プラグインにもよります。かけ過ぎると単にサウンドが汚くなるだけになり、「Black Op Distortion」はその点で言うと、とても音楽的で深みのあるディストーションです。

【リバーブはAbbey Road Reverb Plates】
「知らん」の後半部のソロを担うのは、フリューゲル・ホルンです。フリューゲル・ホルンには、テナー・サックスにはない独特の渋みと暗さがあると私は思っています。
このソロの部分が「知らん」では肝になっていて、特に印象づけるためにたっぷりとリバーブを施すことにしました。使用したのは、Wavesの「Abbey Road Reverb Plates」です。これはアビーロード・スタジオの、伝説のEMT140ユニットをシミュレートした、プレート・リバーブのプラグインです。
実はこのフリューゲル・ホルンには、別のプラグインで隠し味的に、テープ・エコーのディレイ音を付加しています。そのディレイ音と、EMT140のプレート・サウンドがとてもマッチして、モダンではない少しレトロでクラシックなサウンドになるようにしました。このプレートのサウンドは、部分的にヴォーカルにも付加されています。

【トータル・コンプで使用したVBC FG-MU】
マスター・トラックに挿したトータル・コンプ用のプラグインはSLATE DIGITALの「VBC FG-MU」で、これの下段にはWavesの「SSL G-Channel」といつものように「J37 Tape」を挿して、全体のサウンドを整えています。
ちなみに「VBC FG-MU」は、Fairchild 670とMANLEY VARIABLE MUを模したコンプレッサーであり、コンプの使い勝手が良くなるようにという工夫なのか、大きめのノブの部分がFairchild 670、右側の小さなノブの部分がMANLEY VARIABLE MUということになるでしょうか(実機とはまったく異なる見た目ですが)。確かに、この組み合わせの方がコンプとして使い易いです。
オケのパートもヴォーカルのパートも、レコーディング時でそれなりにつぶしてあるので、今回の曲ではピーク成分で気になるものがなく、「VBC FG-MU」では実質的な音圧上げと全体の密度感のバランスを整えるために専念され、最終的には「J37 Tape」のテープ・サウンドが加えられたという形になります。

今回の曲はUVIシンセの「Falcon」とリズム・セクションにおける「Battery 4」のサウンドがふんだんに使用されていますが、やはりレコーディングからミキシング行程に至るまでのコンプやEQによる色付けというのがとても重要になります。ぐっとくるサウンドに仕上げるためには、仮に、これは例えばの話になりますが、Cubaseで打ち込んだ後、適当にマキシマイザーで音圧を上げてファイル書き出しして終わり、みたいなやり方では絶対に音楽作品にはならないのです。

今回の「知らん」はどういうわけか、必要以上にPro Toolsのオートメーション機能を活用しましたが、なんとか無事にミキシングを終えることができました。

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