侘びの世界へ―Flower's Topology

ビターなエレクトロ・ポップ―「Whose Is The Wristwatch?」のレコーディング

【今回は大いに使用されたKORG minilogue】
自分で作り出すサウンド(曲調ということも含め)について、なかなか冷静に客観的にとらえるのは難しいものではあります。しかしそれでも、私ことUtaroのエレクトロ・ポップというのは、どちらかというとbitterなサウンドが多い、ということになるでしょうか?

子供の頃から、チョコレートの好みでいうと、いわゆるミルク・チョコ系よりもbitterなブラック・チョコの方が好きです。近頃、明治のブラックチョコレートを頬張っても甘く感じてしまうのだけれど、子供の頃にそれをかじった時は、とてもとてもbitterな感じがしました。よく分かりませんが、昔と成分が違うのでしょうか?

それはさておき、「Whose Is The Wristwatch?」のレコーディングについて。前回お伝えした、Teenage Engineering OP-1で打ち込んでおいたリズムは、例によってアナログ・ミキサーMackie 1604-VLZ3を経由しApolloに入力。UADのDSPプラグインNeve 88RSチャンネル・ストリップでコンプ処理をしてPro Toolsでレコーディング。
この際のOP-1でのいくつかのパートの振り分けは、なかなか気を遣います。バランスを重視しすぎて安定感を狙うと、鳴り方としてつまらぬリズムになることがあり、適度にわざとステレオのバランスを崩してみることも実践すべきです。ただ、あまりバランスを意図的に崩して、片方のチャンネルにサウンドのエネルギーが偏るのも問題で、そのあたりのさじ加減は経験則と“冒険意欲”の兼ね合いとなります。尤も、こんなことくらいで他人の評価が気になって神経衰弱になるのなら、音楽家として向いていないと諦めた方がいいのです。鋼のような自己顕示欲と決断力は、(失敗を怖れず)サウンドを次から次へと決定・構築していく上で必須要項です。

さて、「Whose Is The Wristwatch?」のリズムは、とくになんだかbitterな感じがしたので、この曲のダビングはいっさいRoland JD-Xiを使わず、すべてKORG minilogue(ポリフォニック・アナログ・シンセ)でまかないました。リズムに付加したパートは計6トラック分で、結果的にはこれが功を奏し、よりいっそう全体がbitterな感じになりました。minilogueのダビングもまた同じく、Neve 88RSチャンネル・ストリップによるコンプ処理を施しています。

【Pro Tools画面。録られた各パートのクリップ】
OP-1で打ち込んだリズムの中には、ベース音が含まれているのですが、これだけだと物足りないので、minilogueのプリセットにあるNo.50の“Que Bass”というのを使って、シンセ・ベース音を付け足しています。
すべてのパートにおけるNeve 88RSでのコンプの掛け録りの意味合いというのは、単にそれぞれのピークを抑えレベルを均一化する目的だけではなく、全体のサウンドの雰囲気を合わせていくためのマジックでもあり、このコンプの掛け録りのやり方次第で雰囲気ががらりと変わってしまいます。逆に言えば、ここでこの曲の“すべて”が決まってしまうということです。

仮に、“すべて”がここで決まってしまうのが怖くて、なんの脈略もないコンプによるレベルの均一化を施し、あとあとのミキシングの際に委ねようとすると、あまりうまくいかない場合が多いです。全体のサウンドの雰囲気を80%、レコーディングの際に決定してしまった方がいいのです。付け足しの“Que Bass”シンセ・ベース音はあくまで補うものとしての音なのだから、あまりしゃしゃり出ぬようそれなりのコンプの掛け方をする――といったぐあいに。
それぞれ鳴っているパートには、それぞれの“鳴り”の役割があり、それに見合ったコンプ処理を施すというのが、大前提。これのさじ加減もまた、経験則と“冒険意欲”の兼ね合いということになりますが…。

コメント